PD(Positive Deviance)ボックス - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

PD(Positive Deviance)ボックス

PDボックス
―変化を生み出す前向きな逸脱(Positive Deviance)好事例集―

日々活動が継続しているのは、どこかにその要因があるはずです。その組織特有の強みに気づき、やり方を広げていくことで新たな好事例が生まれます。当委員会では、社会変革にもつながるアプローチである「ポジティブ・ディビアンス(Positive Deviance)」に注目し、好事例を見出す方法を追求しています。活動の一環として、講師に産業医科大学の河村洋子先生をお招きし、「みんなのPD勉強会」(2024年3月22日〜8月23日)を開催しました。全6回、発表者20名と聴講者でポジティブ・ディビアンスについて学び、議論を深めました。PDボックスでは、日々の実践で生み出した工夫、「PDメガネ」をかけることで見えた新たな側面など、お寄せいただいた気づきの好事例をご紹介します。ぜひご参考にしてください。(好事例収集委員会長・小林由佳)

コンテンツ

  1.  タイトル カテゴリ
     1.指導をしない保健面談   早期発見・早期対応、相談対応
     2.「なぜ辞める?」から「なぜ辞めない?」にフォーカスしてみたら   早期発見・早期対応、相談対応
     3.どこでも保健室   早期発見・早期対応、相談対応
     4.WHYの落とし穴、HOWからはじまる解決ストーリー   早期発見・早期対応、相談対応
     5.ポジティブの連鎖   職場環境改善
     6.より効果的なストレスチェック制度の活用に向けた取組   ストレスチェック(個人対応、集団分析活用含む)
     7.WHYだけでなく、出来ているところ、良い所を見つけて増やす   職場環境改善
     8.組織診断をきっかけとした現場から始まる変革   ストレスチェック(個人対応、集団分析活用含む)
     9.まさに「長椅子コミュニティ」   コミュニティ

 

ご挨拶

「P Dのアプローチを現場に活用したい!」というメンバーが集まり,半年間にわたり勉強会を開催しました.P Dは思考を柔軟にして,現場の聴こえていない声や見えていないものを探してうまく活用していくアプローチであり,勉強していくうちに,「すでにPDアプローチを実践している!」という発見もありました.

P Dアプローチは、変幻自在のあらゆる現代社会の課題に対応できる無敵の武器になり得ると考えます.勉強会を通してPDアプローチが産業保健分野でも広がることを期待しています!(PD勉強会運営・司会 栗岡住子委員)

指導をしない保健面談

Case1

(カテゴリ)早期発見・早期対応、相談対応
(業種)製造業
(従業員規模)1000人以上

(氏名)松井加江(Kae Matsui)様
(職種)保健師

起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください)
健康診断の結果等で生活習慣の見直しが必要な人や産業医の指示で保健指導が必要な人

承:何に気づき、行動しましたか)
保健指導の対象者は毎年同じメンバーが多く、指導される内容も毎年同じとなることが多いと思われる。そのため、対象者からは、自分でも分かっていることを再度指導されることやインターネットで調べればわかることを指導されることに対し、保健指導を受ける必要性を感じないとの意見がある。そのため、対象者が医療職と話してみようと思える案内方法や対象者にとって有意義な時間とするための工夫が必要であると考えた。

転:どのような展開がありましたか?)
実施する保健指導のネーミングを指導という言葉を用いないネーミングに変更した。また、面談前に自らの健康についての振り返りや自己学習を行い、自分で目標や達成のための取り組み計画を立ててもらう。その目標や計画はデジタルツールを用いて、計画を入力すると自動的に健康診断結果と行動計画が対象者へ送付される仕組みを準備した。
また、案内時には“健康について話す時間であること”をしっかりと伝える。対象者との面談時には“ましょう”という言葉を使わないこと、上から目線の指導とならないように心がけている。

結:どんな結果につながりましたか?)
面談実施率が向上した。また対象者が継続フォローを希望するようになった。

どのような点が良かったと思いますか?)
面談前に自ら計画を立ててもらうことは、指導者の一方的な指導となることが防げ、対象者が主体的に話すきっかけとなっている。またデジタルツールの活用はデジタル化に関心のある従業員が計画シートを作成してみようという意欲につながったり、実際に自分で決めたことが文字として示されることで行動変容のきっかけとなったりしている。面談時には、指導者が指導をしないこと(できていない部分にフォーカスしない)が本人の自己決定を否定しないサポートとなり、対象者が自ら改善が必要な部分や今後に向けての良い選択に気がつくことができている。継続支援の希望も増え、良い生活習慣を継続するための動機づけの機会になっている。

ご協力をありがとうございました)



 

「なぜ辞める?」から「なぜ辞めない?」にフォーカスしてみたら

Case2

(カテゴリ)早期発見・早期対応、相談対応
(業種)製造業
(従業員規模)300〜499人

(氏名)児玉裕子(Yuko Kodama)様
(職種)保健師・公認心理師
(所属)コミュニケーションデザイン・ふぉろむ


起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください)
若い従業員の離職が続くことで、管理監督者は職場を否定されているような感情になり自己肯定感、自尊感情の低下が心配される状況にあった。

承:何が起こっていましたか? )
個人面談を実施したところ、様々な感情を吐露され、またうつ状態を呈する方もいることがわかった。その感情が職場のモチベーションを低下させ、また心理的に不安な状況を作り出すネガティブな連鎖を引き起こしていた。

転:何に気づき、行動しましたか? )
メンタルヘルス対策を浸透させていくこと、メンタルヘルス不調者のサインに気づきと声かけができること、「辞める若者」の視点から「辞めない若者」の視点にシフトすることで、当たり前で無意識になっている職場の良さに自ら気が付いて欲しいということを感じた。
離職について共通した感情は「なぜ辞めるのか(怒り、悲しみ、諦め)」「職場のどこが悪いのか」ネガティブなものであった。管理監督者の視点である「離職する若者」から意図的に「同じような状況で辞めない若者」に視点をシフトする問いかけを行った。
辞めない理由の中に、その職場にしかない強みや資源、資産がたくさんあり、良いところ、素晴らしいところを見える化していくことを提案した。

結:どんな結果につながりましたか?)
アンケートから「辞める理由よりも、残る選択をした理由にフォーカスすべし、今後の方向性に光が見えた」等とあったことから、
参加者は自分の職場で実際に起こっていることを、ネガティブな感情からポジティブな感情に置き換えることができたのではないか、自分自身や職場の状況を肯定的に捉える気持ちの変化があったのではないかと考える。

どのような点が良かったと思いますか?)
「なぜ辞めるのか?」「どこが悪いのか?」の原因追及問題解決のギャップアプローチではなく、対話によるポジティブアプローチで、参加者が自らポジティブ感情を生み出したこと。ポジティブな感情が、考え方や行動の変化のきっかけに繋がったこと。
外部支援者として、看護師や人事担当者との信頼関係の構築の中で同じ方向性を持ち、一緒に進めていけたことがとても良かったと感じる。

ご協力をありがとうございました)


 

どこでも保健室

 

(カテゴリ)早期発見・早期対応、相談対応
(業種)製造業の販売系事業所、サービス系、本部
(従業員規模)1000人以上

(氏名)TOTO株式会社 健康管理第2グループ様


起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください)
20代の若手から60代まで、多様な世代が同じ職場に出勤し業務を行っている。勤務地によっては在籍する社員の年代に偏りがあったり、人員数が少ないなど、現場での相談や報告がしにくい環境があることもある。
産業看護職は地域担当制としており、産業看護職と社員の距離は、同じビル内の事業所もあれば遠隔地を支援するケースもあり、物理的距離にかかわらず社員が産業看護職を身近に感じ、相談しやすい工夫が必要である。

承:何が起こっていましたか? )
不調への気づきと早期相談を以前から研修等で伝え、相談受付窓口として電話やメールを設定し社内イントラで周知しているが、早期のうちに相談メールや来所するケースは少なく、相談のタイミングが掴めず休養が必要になるまで戸惑っている事が予想される。それは相談しようと思っても、産業看護職との距離感や、また、相談したことを周囲に知られてしまう不安や、心配な気持ちがないまぜになり、どのように相談行動を起こしたらよいかわからないなど、早期相談が難しいと感じる理由が複数あることが予想される。

転:何に気づき、行動しましたか? )
そのような人に相談の障壁を下げ、誰も取り残さない事を実現するため、相談受付コードを含む早期相談を促すポスターをトイレ個室内に貼り、そのコードにスマホでアクセスしフォームに入力するだけで、折り返し産業看護職から連絡がくるという、コネクトチャンネルを設けた。

結:どんな結果につながりましたか?)
早期相談や新規相談があり、職場との連携強化へとつながっている。

どのような点が良かったと思いますか?)
コードのアクセス先は、氏名、社内番号、連絡先を入力するのみのフォームになっており、詳しい相談内容を記載する必要がないため、話したい、というサインだけを伝えればよく、相談内容を限定せず、ファーストゲートとしてのハードルを低くしていること。

ご協力をありがとうございました)


 

WHYの落とし穴、HOWからはじまる解決ストーリー

Case2

(カテゴリ)早期発見・早期対応、相談対応
(業種)総合人材サービス
(従業員規模)500〜999人

(氏名)布野雄紀(Yuki Funo)様
(職種)臨床心理士、公認心理師
(所属)アデコ株式会社


起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください
20代~60代と年代幅のある事業所

承:何が起こっていましたか? )
対人関係トラブル、キャリアに対する不安が常に課題にあがっている

転:何に気づき、行動しましたか? )
課題解決のために、なぜ課題となっているかという視点から、この局面でも「トラブルが少ない、むしろうまくいっている」、「キャリアについて不安がない、もしくは建設的に検討できている」、2軸について片方だけでも満たしている人はいないかという切り口に変更し、ヒアリングを実施

結:どんな結果につながりましたか?)
思いもよらず、両軸を満たしている人は、事業者内でよく雑談をしている人ということが分かり、事業者内で、なるべく多くの方が語りある空間の創出をするという展開がおきました

どのような点が良かったと思いますか?)
慢性的な課題であるほど、なぜの発想だと行き詰まりやすいので、アプローチをかえることで、行動しやすくなったと思います。そして、それにより、修正点が見え、さらに行動するというサイクルが回っているのがよいところと思います

ご協力をありがとうございました)


 

ポジティブの連鎖

 

(カテゴリ)職場環境改善
(業種)製造業
(従業員規模)1000人以上

(氏名)福田郁巳(Ikumi Fukuda)様
(職種)保健師


起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください)
某企業管理部門において、例年ストレスチェックの集団分析結果を元にして、「ストレス度が高くエンゲージメントが低い」職場の管理職に対して産業保健スタッフがお困りごとのヒアリングを実施していた。
承:何が起こっていましたか?)
対象となった管理職はヒアリングの場へ神妙な顔付きで現れ、原因探しの時間となることも多く、「呼び出されることは結果が悪いことへの罰のようだ」という声も聞かれていた。

転:何に気づき、行動しましたか?)
管理職が想定する困りごとの原因・背景の中にはすぐに対処できないものが多く、改善の見通しが立ちにくかった。また打ち合わせの場の雰囲気の重さも相まって、対象管理職だけではなく、産業保健スタッフのモチベーション維持も難しかったため、ヒアリング対象職場を見直すことにした。同じように「ストレス度が高く」従業員が疲弊している状況にも関わらず「エンゲージメントも高い」職場にも声をかけ、今できていること、組織の強みを中心にヒアリングを実施した。

結:どんな結果につながりましたか?)
面談中の笑顔が増え、会話が弾むようになった。今すでにできていることを継続したり、強みを発展させることからアクションプランを検討することで、、職場環境改善に向けたスモールステップで無理のない計画を策定できるようになり、翌年以降も進んで産業保健スタッフに対応を相談いただけるようになった。また、管理職から部下へ積極的に保健師への相談を勧めるようになり、予防的に健康相談を利用する事例が増えた。結果の思わしくない職場への声掛けも同様に、できていることや強みを中心にヒアリングするように心がけると、同様の変化が見られた。

どのような点が良かったと思いますか?)
ヒアリングの場が管理職の日々の取り組みの振り返り、労いの機会となり、ポジティブな対話から職場の健康管理のキーパーソンである管理職と産業保健スタッフの信頼関係の構築に繋がったことで、組織との連携強化が図れたことが良かった。
また、産業保健スタッフのマインドセットもコミュニケーションの質に影響していたかもしれない。対象者や組織の可能性を信じて、今あるものに目を向ける時間を取ることは、職場環境改善以外の個人や集団・組織への支援の際にも必要な視点ではないかと考えた。

ご協力をありがとうございました)

 

より効果的なストレスチェック制度の活用に向けた取組

Case2

(カテゴリ)ストレスチェック実施(実施後の個人対応、集団分析の活用含む)
(業種)官公庁
(従業員規模)1000人以上

(氏名)窪田新太郎(Shintaro Kubota)様
(職種)心理職


起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください)
法令改正により平成28年度からストレスチェックを実施している。

承:何が起こっていましたか? )
集団分析結果を効果的に活用した職場環境改善の取組みにつながりづらいという課題がある。

転:何に気づき、行動しましたか?)
管理職の方々に話を伺うなかで、集団分析結果をもらっても、高ストレス者率に注意が向きがちであるということに気づいた。また、職場全体のストレスチェック集団分析による健康リスクB(職場の支援状況)の得点の推移をみると、コロナ禍真っ只中の2年間、顕著に得点が低くなっており、「逆境に立つと、職場内のサポート力が増す」という職場の強みがあることに気づいた。改めて、ストレスチェック制度の理解を深めるとともに、職場環境改善への取組を促進することを目的に、管理職が出席するさまざまな会議に私たちが出向いて、ストレスチェック制度についての話をした。高ストレス者がどれくらいいるかだけでなく、集団分析結果で職場の強みも分かるということも例として話題にした。
管理職だけでなく、実務担当者に対する理解促進も必要と感じ、外部講師を招いて、架空の集団分析結果から職場環境改善の取組みについて話し合う、ワークショップ形式の研修を実施した。

結:どんな結果につながりましたか?)
ストレスチェックを活用した職場環境改善に意欲を持つ管理職が増えた(ストレスチェックに関する問い合わせが増えた。)。私が所属する健康管理部門以外の別の部署にも職場環境改善に関する問題意識が共有され、話し合いをするきっかけになった。

どのような点が良かったと思いますか?)
職場全体のストレスチェックに対する意識向上につながり、今後、職場環境改善の実効性を高めるための土台づくりができた。

ご協力をありがとうございました)


 

WHYだけでなく、出来ているところ、良い所を見つけて増やす解決ストーリー

Case2

(カテゴリ)職場環境改善
(業種)機械製造業
(従業員規模)1000人以上

(氏名)錦織みさ(Misa Nishikori)様
(職種)看護師・産業保健法務主任者
(所属)舶用推進システム事業部 玉野工場 安全衛生グループ


起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください)
20代~60代と年齢幅のある事業所。業種も多種多様。

承:何が起こっていましたか? )
世代間ギャップがあり、コミュニケーションが十分でない所がある。出来ているところ、良いところが沢山あるのに、ダメな所だけを指摘される傾向がある。過去、社内でどんな改善活動がされてきたかを調べた。

転:何に気づき、行動しましたか?)
職位別にヒアリングを実施。良いところや課題と思っているところ、もう少し改善したらいいのに、と思っている所を聞いてみた。何かを強制するよりは、自分達で考えて活動をしてもらう方が良いと感じた。

結:どんな結果につながりましたか?)
まずは、中間管理職向けにソリューションフォーカス研修を開催。結果、アンケートで社内に広めるには、課長以上の人の研修受講も必要。モデル職場を作って活動しては?という意見が記載されていた。結果、2013年から2024年3月末まで継続される活動となった。現在は、公式な活動は終了していますが、部で独自に活動を継続している部署もあり、自分達で楽しめるスタイルで活動が継続されている。
どのような点が良かったと思いますか?)
外部講師へ研修を依頼して研修を開催していたが、社内の状況や研修コンテンツについて、希望や要望を具体的にやり取りして研修を組み立てていた。また、モデル職場で活動をしてもらうグループから研修へ参加してもらう人数は、3~8名程度でソリューションフォーカスの基本や職場でどのように活動したいかを学ぶのは、スタート時の半日研修2回だけで、後は、職場のコミュニケーションを改善するには、どのようなステップで進めて行くかは自分達で考えてもらい一定の型にはまった改善方法は、使用しない方法を取った。普段の業務と並行して、自分達が楽しめる、コミュニケーションアップにつながる方法が職場内で定着したのは、良かったと思っている。

ご協力をありがとうございました)

 

Copyright © 日本産業ストレス学会 All Rights Reserved.