PD(Positive Deviance)ボックス - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

PD(Positive Deviance)ボックス

組織診断をきっかけとした現場から始まる変革

 

(カテゴリ)ストレスチェック実施(実施後の個人対応、集団分析の活用含む)
(業種)酒類事業
(従業員規模)1,000人以上

(氏名)里村 ちおり(Chiori Satomura)様
(職種)保健師
(所属)アサヒプロマネジメント株式会社


起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください)
弊社は、従業員が活き活きと働き、能力を伸ばしていける職場環境づくりに努めています。取り組みの一つとして、テレワークとオフィスワークをどちらも推奨しながらワークライフバランスと生産性の向上に取り組んでいます。年に一度、職場の健康づくりの一環としてストレスチェックでセルフケアを行っています。また、多様な働き方をされている従業員の労働環境を把握するために組織診断で従業員のエクスペリアの評価を行い、個と組織に対して支援を行っています。

承:何が起こっていましたか? )
我々の職場はより良い方向へ変わることを目指し、組織診断で従業員が心身の健康を保てているのか、効率的に働き生産性が高い状態であり尚且つ維持できるのかをイメージしやすいように、組織診断のデータと健康管理データ(統計)を活用して資料を作成しています。作成した資料をベースに、事業場長(経営層)と産業保健師が対話をしていきますがお互い気づきが得られるようにすることを大事にしています。対話の中では、産業保健師の視点でチームの特性をFBできるように努め、職場環境がより良い方向に軌道修正するための一助となることを目的としています。

転:何に気づき、行動しましたか?)
社会変革期の中で職場環境改善をするには、スピードを最優先に考えています。新しいものを取り入れるよりかは、職場の中で既に取り組まれている良い方法を見つけだし参考にして頂けるよう動機づけ支援を行いました。

結:どんな結果につながりましたか?)
その結果、上司のマインドに変化がうまれ働く従業員のストレス反応が好転し長時間労働者が減少しました。

どのような点が良かったと思いますか?)
ストレスチェック実施に向けた取り組みから組織診断を行うまでのプロセスについて目的と意味づけを何度も説明しながら(啓発活動含む)職場全体で共有しながら大事な取り組みであることを周知したこと。また、組織診断の取り組みを通してマネジメントを経験や勘に頼るのではなく、健全な運用となるような働きかけとして事業場のトップに課題を認識できるようなデータの見せ方の工夫もポイントだと思います。諦めずに最後まで実装できたことは、各関係者が職場をより良い方向へ変えるというマインドを持てたことが全ての原動力になるので良かったと思います。

ご協力をありがとうございました)


 

まさに「長椅子コミュニティ」

Case2

(カテゴリ)コミュニティ
(業種)製造業
(従業員規模)1,000人以上

(氏名)鈴村亜紀子(Akiko Suzumura)様
(職種)公認心理師・臨床心理士
(所属)三菱重工業株式会社


起:対象者や職場の状況など、背景について教えてください)
オープンで緩やかな人間関係はどうやって創り出せるのだろうか。そのヒントが、私の勤務する健康管理室にある「長椅子コミュニティ」にありました。

承:何が起こっていましたか? )
健康管理室のドアを開けると、右手45度の位置に長椅子があります。社員が健康管理室に入ると、長椅子が呼んでいる訳ではないのについついそこに座ってしまいます。長椅子に社員が座ると、産業看護職、心理相談員、健康管理室にいる誰かがその人に自然に話しかけ、とてもいい距離感で話ができます。適度な距離感を長椅子が創り出してくれているようです。
また、4月からその長椅子の近くで、週1回昼休みに誰でも参加できるYouTubeを使ったヨガをはじめました。はじめた当初は、長椅子に座って観ていた同僚が何人かいました。そのうちの1人は腰痛がありヨガができなかったので、長椅子に座って私たちを観ていたのですが、今ではヨガを一緒にしています。健康管理室のスタッフ以外の同僚も参加しています。この椅子に座ると、なんだかやる気が出てくるのではないかと想像します。

転:何に気づき、行動しましたか?)
長椅子は元々そこにあったので、長椅子に特別な意味付けはありませんでした。PDのナッシ・ルディーンの話のように、私は長椅子が意味をなしていたことに全く気づいていませんでした。
PD勉強会で「これほど自殺の少ない町が存在するとは」という論文から、知らず知らずのうちに自殺が抑制されていたのは、車が入らない路地が多い“この街”に、江戸時代から続く建築様式「みせ造り」の『ベンチ・長椅子』が点在していた空間構造特性に自殺予防因子があったことを知りました。このコミュニティ特性を少し取り入れるだけでも自殺を防ぐ因子に導けるのではないかと考えていた時に、健康管理室の環境が、“この街”の『ベンチ・長椅子』と似ているという気づきを得ました。

結:どんな結果につながりましたか?)
論文では、『ベンチ・長椅子』は、人の行動様式に合わせて仕掛けるナッジであり、無意識に人が同じ目線で並んで話をし、困り事の小出しが習慣化していました。また、“この街”の適度な距離感をもった緩やかな絆が自殺予防因子となっていたのですが、当人たちは無自覚・無意識であり、他愛のない会話を交わす中で、自分自身の悩みや、隣人の変調、地域の気がかりな出来事が話題に上がり、問題の早期発見早期介入に繋がっていました。
この自然な距離感は作ろうとして作れる訳ではありません。よくよく振り返ってみたところ、健康管理室の長椅子は、このほどよい距離感を創り出していたことに気づきました。
緊密過ぎない、オープンで緩やかな人間関係、まさにこの距離感を見出せていたのです。

どのような点が良かったと思いますか?)
長椅子には、何人でも座ることができます。もちろん限界はあるのですが、人が集まっただけ何とかして座れます。健康管理室の長椅子は一体化した距離感も創れます。そこで言いたいことを言いたいだけ言って一体感を持てたことで満足して帰っていった方もいました。また、ちょっと悩んでいた方が長椅子に座った時には、皆は自然と少し距離を空けて座ったり、長椅子の周りで立って話したり、その状況に応じて絶妙な距離感がその都度創られていました。長椅子が適度な距離を生み出す・創り出すのだと思いました。
そしてこれは創造の世界であることに気づきました。共同性だったり、ケアだったり、孤独ではないと実感することになったり、モチベーションを上げることに繋がったりしていたのではないか、まさに「長椅子コミュニティ」はPDではないかと実感したのです。
ご協力をありがとうございました)


 

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