工藤 香奈さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

コロナ禍の産業保健活動の実際と展開のヒント

>工藤 香奈さん

工藤 香奈さん Kudou Kana

イビデン株式会社 健康管理推進センター
保健師

“顔の見える支援”で、社員の心と体の健康をサポート

コロナ禍で業務量が増加する中、事業継続を第一に積極的な対策が求められた

―社員のストレスの状況について、コロナになってから気づいたことはありますか?
 コロナの影響でデジタル化が進み、PCの需要と連動するICパッケージなどの電子事業部門の業績が好調です。忙しくなっているので、今後は過重労働対策が必須だと思っています。キャリア採用も増えていますし、人事部門と連携して時間管理をしたり、教育体制を充実させる必要性を感じています。
 大型投資(立ち上げ)に関わる部門は労働時間が長くなっていて、社員のストレスも高まっているように思います。
 事業部間の異動も多くなり、セラミック事業から電子事業に異動する人も増えています。設備や扱う製品が全く違うので、セラミック事業時代(前職場)の経験を現職場で活かしづらかったり、ある程度の年齢や職位の方も1から覚えないといけない状況が起こっています。そういった方々への配慮や継続的なサポートが今後必要になってくると思います。

―コロナ禍での会社の状況はいかがでしたか?
 全体としては、コロナ以前とあまり変わりませんが、業績は伸びています。
 間接部門は、感染対策のため、大型連休後の一定期間のみ在宅勤務が推奨されました。在宅期間は、感染状況によって延長されることも多々ありました。慣れない在宅勤務を行なうことにより、コミュニケーションが低下したり、気晴らしがしづらいという社員からの声も聞かれました。私たちの部署でも在宅勤務が導入されましたが、在宅メンバーが孤立しないように何もトピックスがなくても話の機会が得られるように10時と15時は定例ミーティングをオンラインで行う工夫をしました。
 製造業なので製造メンバーは在宅勤務ができない分、まずは感染を社内に持ち込ませず製造を続けるということに必死でした。日々の感染対策として対策本部が設置されていますが、体調不良等があるときに、いかに早く相談してもらえるか、情報のキャッチができるかが重視されてきました。社内へ感染をもちこまないように、会社内だけでなく、外出などのプライベートな部分での行動制限も強いられ、コロナ前のようなプライベートの過ごし方もできなくなり、ストレス発散も難しくなったのではないかと思います。
 各事業場にある食堂も対面での着席が禁止になりました。一方向を見ながらの黙食なので、普段のランチタイムの楽しい時間がすごせない、何気ない息抜きができないところでのストレスというのもあるかもしれません。アクリル板越しの会話など、コミュニケーションも取りづらい現状はあります。

現場をよく知るスタッフがオンラインで対応することの強み

―コロナ以前にはなかったストレス、ワクチン接種の時の様子など気になる点はありますか?
 基本的に車通勤なので、出勤もコロナ以前と変わらず、働き方にも変化はありません。海外に拠点があるため、コロナ前は海外出張に行く人も多かったですが、コロナが流行しだしてからは海外出張者は減りました。感染状況を踏まえながら、これからまた徐々に増えていく予定です。
 去年の4月に海外に赴任していた方は、日本にいつ戻されるのか、戻れるのか、隔離期間がどうなるのか等、不安感が強かったと思います。他にも、ロックダウンが行われ外出ができなかったり、外出するには証明書が必要だったり、もし今病気になったらすぐに診てもらえないかもしれないという不安の中にいたので、メンタル的にもきつかったと思います。
 海外赴任の方については、赴任前に面談を行っています。渡航後も定期的に面談ができたらいいのですが、まだ十分にできていない部分があります。海外駐在員の支援としてオンラインでの面談を強化していきたいと思っています。
 産業医や保健師もマレーシア、フィリピン、ハンガリーなど、海外の拠点に行ったことがあるので、現地の生活環境を把握している分、オンライン面談のベースができていて関係性は築きやすいと思います。普通の面談でもそう思いますが、一度会った人とオンライン面談をするのと、初めての人にオンライン面談をするのとではやはり違うなと感じます。様々な機会を通じて姿や顔を見せることが関係性を作る上で重要だと思います。
 一部のグループ会社では在宅勤務を積極的に取り入れています。仕事を進める中で、少し相談したいだけなのに、オンラインでの打合せを依頼するのにハードルが高かったり、わざわざ電話してまでも聞きづらく一人で解決しようとしてしまったりする事例も聞かれました。気軽な息抜きができないとか、普通の何気ない雑談ができなくなったとか、運動の機会が減ってなんとなく疲れるとか、効率がおちたという方がいる一方で、自宅で設備を整えて、快適で効率よく仕事ができているという方もいるようでした。仕事の内容にあわせて、出勤か在宅かを選択し、うまく活用できている社員も見受けられました。在宅だと動かない方が多いので、太ってきたという声は聞きます。心身ともにリフレッシュがしにくくなったという方も多いと思います。
 オンライン面談ができるようになって、全国の方と気軽に面談ができる環境になったのでありがたいと思います。ただ、私傷病、体の病気についての相談はあがってきますが、心療内科の受診や休職、医療に行く前の段階での相談はなかなか上がってこないのが実情です。今後海外赴任中の社員とのオンライン面談も実施したいと準備しています。
 普段からの関係性が築けていないと、最初からオンラインの相談を受けることは難しいかもしれません。

対面とオンラインとを柔軟に組み合わせた個別支援

―コロナ禍での業務上の課題、産業保健職自身の課題はありますか?
 日々面談をしていますが、当初はオンラインツールが会社内で浸透していなかったので、最初は様子をみましょうということで面談が一時ストップ、健診もストップということがありました。ある程度、オンラインの使用が浸透してくると、各事業場の総務部門の方が間に入ってオンラインが使用できる方を調整してくれて、面談ができるようになりましたが、製造業なのでPCがなく対応できない人も当初はいました。
 面談の方法も、感染状況を踏まえながら、①アクリル板越しの面談、②オンラインでの面談、③個室にPCだけおいて、相談者に入室してもらう面談、といった3種類の方法をとっていました。
 面談については、2020年6月くらいから、動きだす感じでした。まずは産業保健スタッフがオンラインツールを使いこなすための勉強から始まったので、導入に少し時間がかかりました。
 課題は、オンラインが浸透しすぎることで「全てオンラインでいいよね」と思われてしまうことです。復職前の面談や深刻な悩みの相談は、入室方法、座り方など、五感を使って感じる情報があります。時間がないからオンラインでいいやとか、大事な相談までオンラインでいいよね、とならないよう注意しないといけないと思っています。オンラインの利便性が上回らないように、対面とハイブリットで使うことが今後も必要かなと思ったりしています。

対話を重視した集団へのアプローチ

―現在取り組んでいることで試行錯誤をしたことはありますか?
 何が正解かわからないので、日々、奮闘しながら模索している状態です。各事業場の活動を統一するために、安全衛生委員会の上部組織として、衛生部会という組織を置いています。人事、健保、組合、産保スタッフ、環境安全部の関係者が月1回集まって会議をし、様々な健康活動を検討して下におろしています。
 コロナが流行ってきた時に集合研修が一気にストップしてしまったことがあります。人事からはEラーニングを作っては?という意見がでましたが、Eラーニングは一方通行になってしまうので、人とのつながりを作りたいという想いから、オンライン研修を行うことにしました。講師が話すだけでなく、チャット機能を作って全員が発言できる機会を作ったり、グループワークを設定したりして、参加型の研修になるよう工夫しました。やってみたら、反応も意外によかったという印象です。
 対面での集合研修は、あてられないと話さないとか、後ろに座っていると目が届かないということがありますが、オンラインの研修では全員の顔が出るので、全体が見やすく、全員が関わらないといけないという印象になります。参加者からも、オンライン研修にすることで参加型の研修となり、楽しめたとか、有意義だったという感想を多くもらいました。 PCを1人1台持っている人に限ってになりますが、オンライン研修はコロナが収まっても続けていくように思います。
 新入社員や現場のスタッフはPCをもっていないので、複数のサテライト会場を使って、講師が別室から研修を行うということもありました。デメリットとしては、各会場の様子がわかりにくかったり、対話が難しいことで、参加型の研修に構成することが難しい点です。受講者の方とも距離があって、対話するという感じではありませんでした。
 年代別に実施しているライフプラン研修は、総合職でない人も研修の対象となるので、どのように実施するかが課題でした。生活習慣とメンタルヘルスの話をしますが、PCをもっていない人は人事から1日貸与するなどしました。ただ、普段PCを使用していない方たちなので、操作面では不安があり、いつでもサポートできる体制にて実施をしています。
 オンライン研修が主流にはなってきましたが、ただ、研修をする立場としては、対面で実際の雰囲気を感じながら研修をしたいというところもあり、対面での研修とオンラインと使い分けながら実施していきたいなと思っています。

“顔の見える支援”、“日常の一コマを利用した情報提供”により、相談しやすい環境を構築

―産業保健で大事にしていることはありますか?
 メンタルヘルスだけ独立して活動するわけではなく、体と心がつながっていると思って、心身共に元気に過ごせられるような働きかけをしたいと思っています。人生において、産まれてからの乳幼児期時代は地域保健としての関りがあり、その後は学校保健、就職後は産業保健での関りがあり、退職後は、また地域保健に戻っていくというように、ライフステージごとにサポートが変わってきます。私たちは、産業保健の領域から地域にかえっていくときに、心身ともに健康に送り出していきたいなと思って活動をしています。こころも体も元気で第二の人生を歩めるようにサポートしたいと思っています。
 コロナ禍においては、普段なにげなく行っていたストレス対処ができなくなっているので(食堂であったり、飲みにもいけない、ランチにもいけないなど)、ストレスを吐き出す場が必要だと思っています。ストレスからくる不調をいち早くキャッチすること、相談しやすい環境を作っていくことが大事かなと思います。
 キャリア採用の方が増えているので、入社してから馴染めるように入口の部分から関われるようにしていきたいと思っています。

―具体的にどんな工夫をされてきましたか?
 コロナ禍のストレスとの付き合い方について、社内報に掲載したり、安全衛生委員会で情報提供としてお伝えしたりしています。
 2021年6~10月にかけて、社内スタッフのみ(産業医、保健師5人)で希望者の職域ワクチン接種を実施してきましたが、産業保健スタッフが顔を見せることのメリット、社外に頼らず社内でやることのメリットを感じています。
 コロナ以前から、キャリア採用の人の健診は、社内診療所で行うようにしています。入社時に、相談できる場所があることを知ってもらうことが目的で、健康診断は外注せず、社内でやってきました。入社時、メンタルヘルスを含めた教育を保健師が中心となって行っています。キャリア採用に合わせて、毎月実施しています。入社時から保健師の存在や顔を知ってもらうことができる機会だと思います。その後の面談で「入社時、健診に来てくれたの覚えてる?」と言えるので、その後の面談もスムーズに行うことができます。

―今後進めていきたいと思う活動はありますか?
 心と体がひとつということで、アプリを使ったウォーキングイベントを毎年2回行っています。職場の方とオンライン上でチームを作って競い合うイベントです。このイベントを通じて、職場のコミュニケーションを高めていってもらえたらと思っています。オンライン上で個別に歩く取り組みなので、コロナ禍でも実施することができました。
 オンラインが浸透してきたので、海外など、遠方の方からの相談も増やしていきたいと思います。
 食堂で一方向を向いて食事をしていますが、食堂にモニターがあるので、動画を流したり、情報提供をする取り組みをしようとしています。メンタルに関わらず、生活習慣に関わることなど必要なことをお知らせしたいと思っています。動画を見ることで、話をせず食事をする環境も作れるのでいいかなと思っています。

―ありがとうございました。 (2021年12月中旬、聞き手:栗岡住子、馬ノ段梨乃)

 

interview11

  • 星野 寛子さん

    星野 寛子さんHoshino Hiroko

    オムロンエキスパートリンク株式会社 
    総務センタ 東日本エリア統括部 保健師

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    情報通信業 保健師

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