白田千佳子さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

フォローアップインタビュー

白田千佳子さん

白田千佳子さんShirata Chikako

情報通信業 保健師

会社をもっと良くするために ラインマネージャーにエールを

 前回、いち早くオンラインを活用した産業保健活動を進められ、そのポイントやコツをお聞かせくださいました白田様に、その後の活動や、これから大切だと思うことについて、お話を伺いました。

 

テレワーク環境になって、初めてラインマネージャー研修が実現

―現状はどのような働き方になっていますか。
 年明けから、全社で75%が在宅勤務をしています。職種によりますが、原則在宅で、週1回出社をする社員が多く、本社勤務の社員は出社率1割程度です。

―コロナ禍だからできた、といえることはありましたか。
 私はコロナ禍の2020年4月に現在の職場に転職してきたため、その前と比べることなく活動を始められたこと、そして保健師になる前の会社員時代はIT企業勤務だったためオンライン業務に抵抗がないこともあって、この一年でやれたことは多くありました。例えば、当社では以前はラインマネージャー対象の研修ができていませんでした。しかし、忙しい方も、遠方の拠点にいる方も、研修をオンラインで行うことで、比較的少ない業務調整で参加いただくことができました。また、各回の人数調整や会場の確保が不要であることは事務局担当者の負担を減らしました。その結果、役員を含む全管理監督者を対象に90分研修を全6回行うことができ(参加率は約8割)、ほぼ全員から教材は見やすく使い易かったとのフィードバックを得ました。このような従来と異なるやり方はコロナ禍でなければできなかったことだと思います。

 

ベテラン社員と若手社員のコミュニケーションエラー

―社員のストレスに変化は見られますか。
 今年度は、数だけ見ると増えているとはいえません。しかし気になるのは、20代社員のコミュニケーションエラーです。特に遠慮がちで受け身タイプの人は見えないところで苦労しているようです。メンタル不調に陥った20代社員に聞くところによると、当社は従来、先輩が気づいたら声を掛ける雰囲気があるそうです。しかし、在宅勤務では、声を上げないと気づいてもらえません。今までは言わなくても気づいてもらえるからあえて自分で声を出してこなかった人が、気づいてもらえずに鬱々してきたのがひとつの変化です。
 ラインマネージャーである上司も、何が正解なのかわからず困っています。同じプロジェクトメンバーにはベテラン社員もいれば若手もいます。こまめにチャットして臆することなく質問し自己主張する社員もいれば、先輩社員の忙しさを知ってか遠慮しがちな社員もいます。様々なコミュニケーションタイプの社員と定期的に話す機会を持つために、毎日定例会議を行っているプロジェクトマネージャーもいますが、それでも言えない社員がいます。
 特に年末ごろからベテラン社員と若手社員のコミュニケーションエラーが起きていると感じることがあります。プロジェクトを離任したり有休を取って落ち着いたりした案件がいくつか続きました。
 他方、周りも薄々気づいていることはあります。前も同じようなことが起きたなど、問題は感じていても様子見をしてしまっているケースなどです。特に、プレーヤーとして優秀なベテラン社員には誰も指導できず、若手社員が絶望してしまったりすることがあります。

 このような状況を受けて、1月2月の衛生講話では、コミュニケーションをテーマに扱いました。事例をもとに「こんなときどうする?」と問いかけて考えていただきましたが、この内容は今までの衛生講話の中でも特に刺さったようで、感想や質問が多く上がりました。
 また、先述したラインマネージャー研修では、初めての開催であるため基本的な内容(管理監督者(ライン)の役割、早期発見、相談対応、組織への対応、職場復帰支援等)について事例を交えてお話したところ、8割の参加者から自由記述コメントが得られました。アンケートを読むと、ラインマネージャーたちの関心は予想以上に高く、メンタルヘルス研修のニーズがあることを実感します。上司は上司で過去の知識や成功体験からアップデートできておらず、それを変えていく必要があると認識されているのだろうと思います。

 

オンライン面談のコツは、相手を知ろうとする積極性

―オンラインの個別対応をどのように取り入れていますか。
 当社はIT企業なので、もともとチャットをよくしていたこともあり、抵抗なくオンライン対応をできています。チャットで連絡が入り、その後すぐオンライン面談ができるなどタイムリーに対応できることはメリットです。個人面談以外でも、管理職からコロナ対応のちょっとした相談などが気軽に入り、距離が縮まりました。また、休職中のフォローができることも助かっています。休職中の方がどのような方かを知っておきたいということもあり、1?2ヶ月に1回面談の提案をしていますが、オンライン面談は皆さん快く受けてくれます。ストレスチェックの高ストレス者には、産業医面談、保健師面談、メールでの情報提供の三択で提案していますが、オンライン面談は双方にとって身近なものになってきており、実施しやすく感じています。
 コツは、相手を知ろうとする積極性だと思います。私は社員のことを知りたいと思い、他部門の実施している年次研修にも事務局として関わらせてもらったり、気づいたことをメモして対象者にフィードバックしたりして会話の糸口となるネタを増やしています。対象者が今どんな仕事をしているのか、年次に共通する悩みはどのようなことか、そういったことを理解すると質問も出てきます。そうして質問を重ねていくと、複数人が共通して訴えることが見えてきて、長時間労働の組織的な問題も少しずつわかるようになります。自分の仕事について話すのが嫌な人はあまりいません。社員が頑張って取り組んでいる仕事に興味を持ち、「私を知ろうとしてくれている」と相手が感じるような質問をすることで、どれだけ話してもらえるかが変わります。そして、相手に興味を持つことは相手を尊重することにつながると思います。限られた時間の会話であっても、いかに信頼してもらえるような態度でこちらが臨むか、これが大事だと思います。

―オンライン対応で留意していることを教えてください。
 オンラインとオンサイトのどちらかではないとできないということはなく、選択肢が増えたと思っています。面談でも、基本的にはオンラインで行なっていますが、例えばアルコール乱用の疑いのある場合や復職直前など、しっかりお話したいときは対面の面談に誘導しています。対面は、オンラインと比べて取り繕いや嘘がつきにくいように私は感じることもあり、実際にお会いすることで、すでに通院していた、家族内で問題になっていた等の新しい事実がわかることがあります。このように対面が必要な人を見抜く目を持つといった自分なりの基準を持つこと、そして「待つ」のではなく「自ら行く」ことを大切にしています。とはいえ、土足で踏み込まずに回り込むような感じで、あくまでも相手を尊重したコミュニケーションを心がけています。

 

サポートネットワークをつくっていく

―今後やっていきたいことはありますか。
 これからもっと「場の設定」を行いたいと思っています。例えば不調から回復し、元気になった方のネットワークを作り、一緒にケアのサポートをしてもらうことなどです。当事者がいちばんの専門家ですので、メンターとしてつなげたりすると組織の役に立つのではないかと思います。また、研修で当事者からお話ししてもらうことも考えています。実際に、復調して現在活躍されている方に提案してみると、とても前向きに受け止めてくださいます。こうした場づくりが今後の自分の役割の一つと思います。

 

健保事業の活用を

―読者へメッセージをお願いします。
 健康保険組合の事業をもっとよく知ると、社員にお得な情報が埋もれているかもしれません。例えば当社の加入先健保では「オンライン禁煙プログラム」を無料で受けられる制度がありますが、情報を取りに行かないと申し込みもできません。このような情報をいかに周知するかが大事だと思います。嘱託産業医にも会社で実施している健康づくりに関する情報を伝え、個別面談の中でも情報提供して頂けるようにするなど、連携していくことも大事です。
 また、情報提供するだけではなく、その後も見据えた活動が大事です。禁煙チャレンジする人を一人でも増やしたいので、営業活動は必要ですし、ナッジを活用した声掛けも有用です(例:皆さんエントリーしていますよ)。より社員の支援を厚くしていくために何か利用できる健康づくりのサービスはないかと探すのであれば、健保事業を今一度確認することをお勧めします。

―ありがとうございました。 (2021年3月中旬、聞き手:小林由佳)

 

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