星野 寛子さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

フォローアップインタビュー

星野 寛子さん

星野 寛子さんHoshino Hiroko

オムロンエキスパートリンク株式会社 
総務センタ 東日本エリア統括部 保健師

変動の時期であっても社員の身近な存在であり続け、専門スキルを発揮

 前回のインタビューで、相手が必要とするときに必要な情報を出すことや、相手の状況や変化に適応しながら、相手にとって本当に大事なことは何かを考え、支援をしていくことの必要性を具体的にお話しくださいました。今回は、その後の活動と今後についてじっくり伺いました。

 

人の適応力に驚き、思い込みにも気づいた

―現在の働き方はどのような状況でしょうか。
 現在、産業保健スタッフはフルリモート勤務です。いったん感染拡大が収まった昨年夏には週3回ずつ出勤し、誰かが健康相談室に在籍するようにしていましたが、緊急事態宣言が再度発出された年明けからは今の状態が続いています。面談は基本的にリモートで行い、対面では行なっていません。担当するエリア(事業所)での社員の出社は3割程度の状況で、人との接触や通勤リスクを減らすためにサテライトオフィスも推進されています。サテライトオフィスでは社員が面談を嫌がったり環境側の制限があったりするので、リモート面談の場所は社員が話しやすい場所を設定してもらっています。

―社員の状況に変化は見られますか。
 うまくいっている人といっていない人の2極化は見られますが、最近はうまくいっている人のほうが若干増えてきている印象です。家のほうが面談の時間調整がしやすい、込み入った話もしやすいというメリットがあります。隙間時間で短めにお伝えすると、それくらいなら時間取れるよ、といった感じで約束しやすい実感があります。
 この一年を通してウェブ環境が整ってきたので、当初は通信容量の問題でカメラオフが基本でしたが、産業保健職との面談ではカメラオンにして頂けるようになりました。環境が整ってもカメラオンに抵抗感のある方もいらっしゃいましたが、表情などで判断できることも多いので最初だけでもカメラオンをお願いしたい旨をメールであらかじめお伝えしておくと、抵抗どころかリビングを見せてくれたり、終業後に飲む予定のお酒を見せてくれたりと、前向きに関わってくれるようになりました。

―以前課題と思っていたが、今はそうでなくなったことはありますか。
 相談対応について、以前は直接顔を見ないといけないと思っていました。直接会って、相談できる空気を醸成しないとうまくいかないし、専門職としてのスキルも発揮できない、と。画面越しの面談には全然自信が持てませんでした。しかし、社員の皆さんはちゃんと慣れて、変化に適応できていることに気づきました。画面越しであっても、約束したことはちゃんとやり続けてくれているし、画面越しから始まっても、二度目の面談はちゃんと二度目の面談になっている。改めて人の適応力のすごさを実感しました。それで、オンラインを含めたやり方での支援もやっていけるのだな、と思うようになりました。今は、コロナ禍がおさまっても、今のようなやり方で進めていって大丈夫、と思えるようになりました。

 

コロナ禍による変化の影響がどう出ているか
話しやすい集団の場を作って距離を縮め、個別も組織もケアできる流れを作る

―アルコール依存も増えてくるかもしれませんね。
アルコールに関しては、自制のきかない方はいると思います。家はアルコールを摂取しやすい環境ですし、翌日通勤して会社に行かなければならない、というハードルもありません。そのためまだ顕在化していませんが、今後アルコールの問題は増えてくるのではないかと感じています。

 そういった異変をキャッチするために、今まさに関係者と来年度の支援の方法を話し合っているところです。本当は何が起こっているのか、状況を確認しないことには語れないので、まずは保健師各自が自身の担当している会社の状況を把握しようとしています。通常は健康診断などで問題がない方には連絡を取る理由がなかったりするのですが、この一年はすごい変化でしたし、どの社員にも何らかの影響が起きていると思います。それで、例えば世代で分けて、教育テーマを決めて、カメラオンで集まってもらってみんなでワイワイ喋る時間を作り、そこに産業保健スタッフも入って教育と顔つなぎを行い、その後一人ひとりと健康チェックの面談につなげていくようにして、なるべくほとんどの人と会える仕組みを作っていこうか、といったことを考えています。
 みんな本当はどう感じているのかというのは、やはり聞いてみないとわかりません。また、聞いていくことで、健康と職場環境の両面が見えてくると思っています。その後の職場環境改善のアプローチもしやすくなると思っています。

―「ワイワイ喋る集団の場」から個人につなげるということですね。
 職場環境改善をやり始めた当初、場所がなくて若いリーダー5名を対象に喫茶店でワイワイと話をしたことがあります。活動の一環として時間をもらって話してもらったわけですが、「今の職場どう?」といった話題を気兼ねない場所で話したことで、これが嫌なんだ、こういうことが良かった、等いろいろな意見が出て盛り上がりました。今思えば、このときが一番情報の出てくる時間でした。そういう場を設けたことが、よかったのだと思います。また、保健師がファシリテータとして話を盛り上げ、課題を共有し、一緒に考えたことで、その場にいた人とはその後も話しやすい関係となったのがとても良い経験としてあります。集団でワイワイと一緒に議論をする場にいた保健師のことはよく覚えてくれているものだと実感しました。そのため、個人との距離を縮めるためには、より話しやすい集団の場から入ることが一番効果的だと思っています。みんなが家にいながら喋れる場を作り、その中で個別対応につなげていくことで、個別対応もしながら職場環境の確認もできますし、みなさんのアイデアを共有できます。そのような流れを作っていきたいと考えています。
また、このような企画には会社の理解も必要です。そのため説明会などでは、今後このような場をつくっていきたいのでご協力をお願いしたい旨を言い続けています。

 

個々に異なる状況への臨機応変な対応

―社員のストレスで気になることはありますか。
 運動不足や、雑談が減ったことにより仕事以外の話題がなくなったことや、雑談の中で確認できていたことをあえて聞かなければならないストレスが増えたという意見があります。
 しかし在宅勤務が2回目ということで、時間の使い方が上手になり、ストレス解消法を増やしている人もいます。ジョギングや呼吸法、瞑想に興味を持つ人が増えました。以前なら瞑想に興味を持たなかったような方がサイトを見てみた、やってみると良かった、と話してくれて意外だったことがあります。みんなそういった自宅でも一人でできるストレス対策を欲しているのだと思います。
 ただし最初から不安の強い人は一人でストレス対策を考えるのが難しいと思います。さらに見通しが立たなくなった、どうやったらこの状況から抜け出せるのか、逃げ場がない、といった不安が増しています。しかし支援の方法も限られるので難しいなと感じます。できることとして、面談を継続しています。
 また、コロナ感染症に罹患した人もいるので、コロナ関連の不安が長引いたり複雑になったりするケースもあります。地域の保健所で対応されていますが、細かい不安やちょっとしたことを聞いてもらうことが主目的の場所ではないので、社内にそういった不安を聞き取る役割を持てるといいのだろうと思いました。

 

今後は現在の経験を活かし、判断の手順や基準を整えたい

 就労できるか否か、様々な状況の人がいます。判断が難しいです。行政や病院は、病気が治れば戻っていいという言うわけですが、不安が強くて外出できない人への対応をどうするか、回復した旨の診断書を持ってこられる人はそういない状況で何を出社許可の判断根拠とするのか、退院したとしても家に何日いたら出社できると判断するのか・・、既存の復職支援プログラムのルールに当てはめられれば良いのですが、実際は会社としても世の中の状況を見ながら判断するしかなく、運用としてはすべてのケースで手探りの個別対応をせざるを得ない状況です。
 ルールを作っても、そのルールが正しいのか否かは前例がないと検証できません。実際には既にある情報と現場の状況からの判断を擦り合わせていくことになります。誰が判断するのか、ということに関しても、会社の規模や組織形態により、医療職が常にそばにいて判断し続けることができないこともあります。その場合は現場の管理監督者が判断することになりますが、私たち医療職はその現場の疑問に答え、現場の判断を支援する機能を持つ必要があると思っています。
 2020年度は緊急事態を常にこなしている状態ですが、今後はこれをどのようにマニュアル化して整えていくか、ということも課題になってくると思います。誰がどう動くのか、どういう手順、どういう指示伝達で動くのか、誰に相談するのか。細かく規定してしまうと動きが取れなくなりますが、事象に対応した大まかな道順の整理整頓は必要なのだと思います。この整理の上で、個々に判断して臨機応変な対応をする、ということが、場当たり的な対応との違いではないかと思います。

 

アクセスしやすく、興味を持ってもらえる情報発信を

―読者にお勧めしたいことを伺ってよろしいでしょうか。
 オンラインを使った情報発信は、短時間、低コスト、多数開催がコツだと思います。時間枠を長くとると、参加できる人が減ってしまいます。隙間時間に参加できるような設定とすることで、みんなが参加しやすいようにすること、タイミングを逃してもまた参加できる機会を設定しておくことが伝えるコツのひとつです。
 それから、情報発信の内容を自分たちで作ることが満足度を高めると思います。知っている人が画面に映って呼びかけてくることで親しみがわきますし、興味を持ってもらいやすくなります。YouTubeでも同様の情報発信がなされていたりしますが、自社のスタッフが自社の課題について話をしている内容はそれだけで価値があると思います。活用できる情報を上手に使いつつ、自分たちのものと思われるようカスタマイズするのが、関心を持ってもらうためのコツだと思います。

―ありがとうございました。 (2021年3月上旬、聞き手:小林由佳)

 

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