永井典子さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

フォローアップインタビュー

永井典子さん

永井典子さんNagai Noriko

パーソルチャレンジ株式会社
人事総務部
(採用と社内の安全衛生に関する対応を担当)

江口尚さん

江口 尚さんEguchi Hisashi

パーソルチャレンジ株式会社
嘱託産業医

上司のコミュニケーションスキルと会社のバックアップで在宅勤務を円滑に

障害者雇用を推進するパーソルチャレンジ株式会社人事総務部の永井さん、産業医の江口さんにお話を伺いました。

多くの社員は在宅勤務に慣れつつあり、生産性も維持されている

―現在の社員の就業環境はどのような状況でしょうか。
 当社はwithコロナの取り組みとし、昨年10月から働き方を週3日以上の在宅、週3未満の在宅、在宅勤務対象外の3つに分け、会社として在宅での業務が必要な場合に一時金や在宅手当を支給することを決めており、頻度は異なりますが、現在約9割の社員が在宅にて勤務をしている状況です。

―社員の変化として感じることはありますか。
 昨年の感染者が増えるタイミングで、当社においても一斉に在宅での勤務を開始しました。開始当初は、通勤がなくなったこと、この緊急事態を何とか乗り切らなければいけないという緊張感もあり、勤怠や不安を訴える声も少数だったように感じます。
 一方で時間が経過する中でコミュニケーションを中心とした問題が生じ、例えば、人と喋らない、人の目がないと仕事をしていると認識されているか不安という声が上がってきました。その後、時間が経過する中で、社員や管理者も慣れやよりよい方法を模索してきたこともあり、現在は不安の声も軽減、逆に現在のはたらき方(在宅勤務)を継続したいという声とともに、生産性の低下も見られてはいません。

コミュニケーションを円滑にするチャット文化とチームの一体感

―周囲からのサポートによる効果もあるのでしょうか。
 当社では、マネジャー、チームリーダー職、定着支援担当によるサポート体制をとっています。
 当初、オンラインの面談においては顔を見ながら話すということを必須としていましたが、現在は定期的な(上司部下間の)面談では顔を見ながら話すということは必須とせず、音声だけで実施する拠点が増えてきています。インフラの問題で通信量が重くなるという理由もありますが、面談は必ず顔を見ながらやる必要があるという考え方に変化が生じているように感じます。もちろん、場合によって顔や様子などの映像で状態を確認する必要はありますが、双方の信頼関係や安全安心な環境があり「言い足りていないのではないか」、など、表情を察しなくても発言が可能な関係性ができているからだと思います。
 会社の特性上、不安を抱えやすい社員が多いこと、マネジャー、リーダー職、定着支援担当などとのコミュニケーションの頻度が多いなど、当社特有の事情もあるため一般化をして捉えることは注意が必要ですが、複数の関係者が頻度高くコミュニケーションをとることで信頼関係や安心安全な環境を作っていけるように感じます。

―コミュニケーションが円滑に進むコツはどこにあるのでしょうか。
 当社は、チャット文化がベースにあり、気になることがあればすぐチャットでやりとりをすることが可能な環境でした。極端な話ですが例えばチャットしてから10分返事がないと、どうしたのかなと思うくらい、反応が早いです。直接の会話に緊張する社員や、聴覚障害がある社員もいます、拠点も複数あるため、ちょっとした声かけはチャットで行うようになりました。社員はツールを使いこなすのが早く、チャットのやりとりに関してもストレスなく馴染んでいます。こうしたベースがなく、いきなり在宅勤務に入ってしまっていたら、戸惑ったかもしれません。
 また、業務が定型化されており、1日にやらなければならない仕事がきちんと決まっていて、量も分担されているので、頻繁にコミュニケーションせざるを得ない状況が発生しにくいこと、自律して仕事ができる環境であることも要因としてあるのかもしれません。

―コミュニケーションの円滑化のために行っていることはありますか。
 朝礼や夕礼を開始するチームが増えました。ほんの数分程度、上司が一方的に声をかけるチーム、不安の声から質問の時間を設けるチームなど工夫があり、長いチームだと毎日30分程度朝会もしくは夕礼を行い、その中での業務の相談や日常に関する雑談をすることで人となりを知ったり、チームではたらく一体感を醸成していたりします。
 全てのチームがこのように交流できているわけではありませんが、当社が大切にしている「チームで仕事をする」という考え方は、物理的な距離がある在宅勤務では実感を得づらく、一体感を醸成するためにこういった取り組みが始まっているように感じます。また、これ以外にも、1対1の面談で話を聞くことや、日々の対話の中で自己発信への意識づけをすることで物理的な距離があったとしても、一体感や交流が生まれるような取り組みがあります。
 一方で、ランチ会や飲み会は減ってきました。参加メンバーが固定されたり、オンラインの画面上、全員が自分を見ているように感じプレッシャーを感じるなどの声もありました。このようなイベントはいつも参加する人と参加しなくなる人の二極化が進み、続かなくなってしまいました。

 

マネジャーとリーダー職との信頼関係とOJT

 当社はストレスチェック結果からも上司支援の数値が高いことがわかっています。
 会社としては、リーダー職の役割を明確にした上で、業務内容等を勘案して上司一人当たりの部下の適正人数を出しています。現場レベルでは、実はマネジャーが人間関係を良く見てリーダーを引っ張り上げ、マネジャーとリーダーとの信頼関係の中でOJTが進むという、いい循環ができています。リーダー側も、リーダーという役割を担うことへのモチベーションが高く、任せられることに対して、役割を全うしよう、学ぼうという姿勢があります。もともとリーダー自身が障害者手帳を持っているケースも多く、それぞれにストーリーがあります。自身の辛い経験から部下への接し方をよく考える方が多いこともあるのだろうと思います。

 

データベース化によって上司のサポートをバックアップ

 会社としてサポートを円滑に行うために様々な面談を通じ職務上必要な支援情報を蓄積、データベース化しています。
 上司は替わることもありますし、定着支援担当も変わる可能性があります。また関係者が増えると、役割があいまいになり属人化していきます。当社は約2年前にデータベース化を決めたのですが、関係者の役割や必要な情報などはこの取り組みにより整理されつつあること、また、在宅勤務が増え、オンラインでのコミュニケーションが増える今、より役に立っています。
 今後はデータベース自体の見直しも検討しており、記録の蓄積だけでなく、不調の早期発見などにも活かせるような内容を考えています。マネジャーの中には経験豊富で、感覚的に判断と対処をできる方もいますが、これから経験を積むマネジャーもいます。もれなくできるよう仕組みでもサポートしていきたいと考えています。

働く基準、基本的な考え方は変えない

 ―この一年でやってみたこと、変えたことはありますか?
 実は、大きくは何も変えていません。むしろ考え方を変えないことが重要だと思っています。時に「今日は体調が悪いので在宅します」という連絡が来ますが、やろうと思えば不調時でも在宅勤務はできてしまいます。しかし、「働く」ということや、在宅であっても「そこは仕事場である」、ことに変わりはないわけですので、働く基準や復職基準を変えずに行っています。 今回の在宅勤務は、9月末までの方針となっています。まだ先の方針は決まっていませんが、人の目が気になって疲れる、体力が持たないので疲れる、という声が聞かれますので、10月以降に一斉出社となり、通勤することになったらどのような影響が出るのか、少し心配しています。

―健康に働いてもらうために、必要だと思うのはどのようなことでしょうか。
 心身ともに健康に働くことは、引き続き進めていかなければいけないところです。体力が落ちている社員や、もともと身体面が弱い社員がおり、外に出ない、陽の光を浴びないという状態も聞きます。在宅勤務があける前に体力を向上させておかないと、通勤が辛くなり、不調者が続出してしまうかもしれません。そのため、在宅勤務があける前に何らかの施策を打つことが必要だと考えています。また、社内の賞賛制度の対象に健康管理を頑張っている社員を入れていくことも検討しています。当社では元々健康管理の重要性を打ち出していますが、健康管理はどうあるべきか、週5日出勤できる体力はどれくらい必要なのか、といった基本的なことを今回改めて考え、発信していきたいと思っています。

変えること・変えないことの考え方とルールをあらかじめ決め、社員に発信

―読者に向けてメッセージをいただけますか。
 永井さん)あらかじめルールを決めて社員にきちんと伝えることは大事だと思います。変えるものはもちろん、変えないものについても、変化の前に共通認識を持てていないと社員を不安にさせてしまいます。当社の場合、在宅勤務は暫定的な措置ですので、制度も含めたルール決めをきちんとしておくことはこの後の混乱を防ぐためにも必要だと考えています。例えば今日のお話の中で、「働くこと」の基準は変えないというお話をしましたが、そういうことを事前に意識的に発信することは、世の中が変わっていく中で社員が同じ方向を向き、健康に働くために最初にやるべきことだと思います。
 江口さん)嘱託産業医のいる事業場で、コロナ禍でどうメンタルヘルス対策を行っていくかということに関しては、やはり人事が主体的に関わることが大切だと思います。当社の人事は、人事が行うことと、産業医が行うことが明確に区別することで、産業医をうまく活用されている印象を持っています。

―ありがとうございました。 (2021年3月下旬、聞き手:小林由佳)

 

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