小野寺 むつきさん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

コロナ禍の産業保健活動の実際と展開のヒント

宗像 かほりさん

小野寺 むつきさん Onodera Mutsuki

エス・エー・エス株式会社
企画・管理部

完全在宅勤務と産業保健活動の両立を模索

完全在宅勤務を前提とした産業保健活動を実践

―企業の概要を教えてください。
 当社はソフトウェア開発が中心業務の、従業員130名ほどの情報サービス会社です。
顧客先常駐作業を行うシステムエンジニアが多い会社であり、元々在宅勤務比率はかなり高めでした。コロナが流行し始めた2020年4月からは、原則として完全在宅勤務に移行しています。以前から在宅勤務が一般的だったこともあり、他の会社に比べると働き方の変化はそれほど大きくなく、スムーズに移行できたと感じています。

ーコロナ禍で大きく変わった点はありますか?
 一緒にオフィスにいる時間が少ないこともあり、以前から社内コミュニケーションの活性化に積極的に取り組んでいました。しかし、コロナの流行によりオフラインでのイベント活動(バーベキュー大会、野球やフットサルの部活動など)ができなくなり、コミュニケーションの機会が減ってしまいました。毎月実施していた飲み会ができなくなりましたし、この時期に実施予定であった従業員の家族も参加するハワイ社員旅行もなくなってしまったのが悲しいです。

また一部の部署の管理職から、「部下のメンタルの状況がつかみにくくなって困っている」と相談を受けています。ランチミーティングなども禁止しているため、特に顧客先に常駐しているシステムエンジニアの就労状況について、上司や営業部署がヒアリングする機会が減りました。もちろんオンライン面接などを実施していますが、対面と比較して不十分なところもあると実感しています。

毎年新卒を採用をしていますが、2020年から入社直後の4〜6月の研修を全てオンラインで実施してます。今年、研修期間終了直後の退職者が約10年ぶりに出ましたが、周囲との接点が減ったことが影響しているかもしれないと感じています。

様々なイベント施策で従業員のストレスケアをサポート

ーコロナ禍の産業保健活動で工夫している取り組みを教えて下さい
 コミュニケーション活性化の取り組みとして、月1回オンラインで実施している全体会議の前後の時間をフリータイムとして開放し、あえて仕事と関係ない雑談を促しています。また事業部では、通常の会議以外に定期的に管理職と部下で1on1ミーティングを実施することにしました。抵抗感を示す部下もいるのではないかと心配していましたが、意外と好評のようです。

また、一時中止していた社内のクラブ活動を再開しました。さすがに対面で多数が集まることはできないので、麻雀大会などオンラインでやりやすいことから始めています。また、オンラインで世界旅行を楽しめる従業員向けプログラムが旅行会社から出ていたので、当社ではエジプトツアーを申し込みました。一つのやり方にこだわらず、大きなイベントから小さなイベントまでいろいろ提供することで、従業員の参加へのハードルが下がると感じています。

また健保とのコラボヘルスにも積極的に取り組んでおり、健保連が作成・配信しているセルフケア・ラインケアの研修動画を社内で紹介しています。「在宅勤務時の健康上の注意点」などの動画は従業員から好評でした。

ー個人的な工夫や取り組みを教えて下さい
 個人的な事情ですが、ちょうど2020年5月から産休育休に入り、2021年4月下旬に復帰しました。夫も同じ会社なので、完全在宅勤務のおかげで協力しながら仕事と育児の両立ができています。ただ、そうは言っても復帰当初は状況がつかめず浦島太郎状態でした。LINEワークスなどで頻回にコミュニケーションを取り、できるだけマメに従業員の状況を確認するようにして状況把握に努め、最近はようやく慣れてきました。


コロナ対策を通じて従業員のメンタルヘルスケアを実践

ー産業保健活動において大切にしていることを教えて下さい
 もともとテレワークを推奨していましたが、それでも顧客の事情などもあり在宅勤務を有効活用できていない職場や従業員はいました。コロナ流行をきっかけに、さらに顧客との調整も進め、従業員への制度利用を促していく方針としています。同時に健康増進活動を進めるために、コロナ対策やセルフケアに関する資料の共有など、積極的な情報発信を重視しています。実際、研修動画の共有の際に管理職から感謝の言葉を言われ、「ラインケアの重要性を他の管理職にも伝えたいので協力してほしい」といった前向きな話をもらったことがありました。これからさらに取り組みを広げていくつもりです。

コロナと直接関係ありませんが、LBGTQ対応も心理的安全性に繋がる要素だと考えており、積極的に推進しています。入社前の研修でも、LBGTQに関する動画資料(専門会社や法務省などが作成したもの)を見てもらうようにしています。もともと当社はワークライフバランス重視の会社ですが、ダイバーシティ対応が不十分と考えて、3年前から会社全体で取り組むようになりました。社内制度としては、同性パートナーも家族手当などの福利厚生の対象にしています。また育児休業についても、パートナーの子供であれば利用可能です。

―コロナの感染対策などの取り組みはありますか?
 コロナ感染者や濃厚接触者をサポートするため、自宅療養になった従業員が出た場合には、食料・市販薬・パルスオキシメーターの配布および定期的な体調確認を実施しています。また会社としての活動ではないですが、社長のご家族がマスクを梱包し、従業員やお世話になっている人たちに送る取り組みをしていました。感染対策については、労務担当者だけではなく社長も「コロナで大変な時期だけど感染に気をつけて頑張ろう」などの声がけをLINEワークスでマメに行っています。

完全在宅勤務でも産業保健サポートを提供できる仕組みづくりが大切

ー今後に向けて試行錯誤している点を教えて下さい
 コロナというよりプロジェクトの影響により、今年に入ってから一部の部署で残業時間が長くなっており、少しずつでも改善させる必要があると感じています。普段会えない分、多忙なプロジェクトのメンバーの体調が心配なので、上司に定期面接の機会を作ってもらい、体調確認や業務負荷軽減の働きかけを繰り返し行っています。

また自分からヘルプを求めることが苦手なタイプの従業員が、テレワークで状況が分からなくなっていることが心配です。実際に入社直後からの完全在宅勤務にとまどい調子を崩した従業員がいました。いまは元気に働いていますが、そういった従業員へのサポートが今後の課題です。

具体的な取り組みとしては、現在当社ではEAPカウンセリングサービスを導入していませんが、社内以外に相談の場があったほうが良いかもしれないと感じています。また当社の女性比率は約3割で若い人が多いのですが、これまで実施していなかった女性活躍推進活動も始めることを検討中です。さらに、ストレスチェック後に集団分析をしっかり実施していなかったので、今後部署ごとのデータなどを解析予定です。

ー今後の目標を教えて下さい
 完全テレワークで従業員の健康支援を継続する難しさを実感していますが、研修動画配信など様々な工夫で乗り切ることが大切だと感じています。たとえば、弊社ではコロナ前から在宅勤務に関する説明書を作成しており、照明の明るさや姿勢など就労環境に対するアドバイスも行っています。またコロナ流行時にも頑張っている従業員のために、特別手当制度も創設しました。こういった様々な健康増進活動の取り組みをもとに、健保連(東京連合会)の認定制度に申請して「銀の認定」を受けています。今後も、対面でなくても従業員の健康をサポートするための仕組みを積極的に考えていきたいです。

(2021年10月中旬、聞き手:石澤哲郎)

interview82

一覧へ戻る

Copyright © 日本産業ストレス学会 All Rights Reserved.