足立 留美子さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

コロナ禍の産業保健活動の実際と展開のヒント

宗像 かほりさん

足立 留美子さん Adachi Rumiko

アールエイチ産業医事務所 代表
産業医・労働衛生コンサルタント

個別相談への丁寧な対応から、信頼関係とより良い連携へつなげる

産業看護職や人事部門との連携のために、相手のニーズに合わせた情報提供と教育、信頼関係の構築を意識

―労働者のストレスを下げるために、これまで工夫や配慮をしたことや、試行錯誤を続けていることがありましたら、教えてください。
 コロナ禍でコミュニケーションが取りにくい環境下だからこそ、「信頼と連携」に重点を置いた3つのことを意識しています。
まず、相談窓口を身近にする工夫です。嘱託産業医としてかかわる企業では、産業医がきめ細やかに社員に関わることができませんが、常駐する産業看護職などの相談先を周知徹底しています。特にコロナ禍で孤独に悩む社員が多くなっている印象があります。悩んでいる社員が、同僚から産業看護職に相談することを勧められると敷居は低くなります。このように周囲の社員からの支援がしやすくなるような環境づくりをしています。

ストレスチェックの有効活用も大切です。集団分析結果をどのように活用するか、安全衛生委員会で議題に出し、各職場や人事部門との議論につなげています。集団分析結果のフィードバックにより、集団(職場)に対しても産業医が関われるという認識につなげるとともに、職場環境改善のために、人事部門とも相談、連携しながら進めています。

人事部門との連携を良くすることも意識しています。そのため、復職支援などメンタルヘルス不調者へ関わる際に、対象の社員は基より人事担当者からも信頼を持ってもらえるような対応を心がけています。また、ストレスチェックにより職場に問題があることがわかった際にも、人事担当者に働きかけをすることから相談しやすい関係になることもあります。人事担当者からの「個別相談」に丁寧に対応することにより、「信頼関係の醸成」や「より良い連携」につながります。

試行錯誤を続けていることは、これもコロナ禍に関わらずですが、発達障害などの特性について社員本人、職場問わずに専門医への紹介や診断希望が増えており、情報の扱い方には悩みながら対応しています。安易なレッテル貼りがされないよう、しかし“その社員に合った職場環境”をつくるための働きかけをしなければなりません。相談に来る時点でレッテル貼りがされている場合もあります。産業医、産業看護職、人事担当者は、職場でのレッテル貼りに左右されず社員の特性を理解する能力をつける必要があります。特に産業医が常駐していない事業所では、人事部門への教育が重要です。

人事部門への教育や情報提供は、訪問の都度必要に応じ常に行っています。個別事例に関連する一般的な資料(学会資料や判例など)を事前に渡し、打合せや相談の際に説明します。口頭のみでは伝わりにくいことも、資料やデータに基づき説明することで理解されやすくなります。継続して教育を続けると、共通認識の上に信頼関係が築け、連携を取りやすくなります。嘱託産業医は、訪問時間が限られているため、個別事例をきっかけにするなど、相手が興味を持つところから始めて相手が欲しい情報を渡すようにするのがコツです。

様々な人に対応する仕事の与え方・育て方の工夫、学び・還元するサイクルづくりが今後ますます重要に

ー今後、進めていきたいと考えている活動がありましたらぜひ教えてください。
 一次予防はますます重要になると思います。仕事のストレス源(悪いストレス)を洗いだしながら、働きやすい職場づくりを進めていきたいと思います。例えば、入社後に発達障害の傾向があることがわかった社員の職場では、その特性に対応するために日々の口頭での指示を、文書での指示に変更することで仕事がスムーズに進むようになりしました。このように、仕事の与え方や育て方を常に工夫する姿勢が求められます。

そのためにも上司を育てることも大事です。製造現場の作業においても、これまでのように「背中を見せて仕事を教える」スタイルでは伝わらなくなってきているので、若い社員や外国人研修生など誰にでも伝わるような教え方ができるように支援することは、すべての社員にとっても無駄なストレスを回避することにつながります。

メンタルヘルス対策においては、事例に学び、専門的な知識を組み合わせて発展させていくサイクルも意識すべき点です。人事担当者、上司、産業看護職等が連携して関わり、学び、現場に還元していく循環をつくることが持続的な発展につながります。加えて主治医、リワークなどの事業場外資源との連携から学ぶことも求められていると思います。

 

集団分析を活動拡大のきっかけに

ー他事業所でも取り組めそうなお勧めの取り組みがあれば教えてください。
 小規模な事業所では、ストレスチェックの集団分析結果の活用を難しく感じて手つかずのところもあるかもしれません。しかし、集団分析結果についての説明をすると多くの事業所で興味を持ってくれます。ストレスチェックに関しては「産業医は高ストレス者の面接指導をする人」と思いこまれているところもあるので、このように集団分析結果を積極的に活用することで一次予防活動が広がるきっかけになると思います。

(2021年11月下旬、聞き手:小林由佳、東 智美)

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