深田 尚弘さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

コロナ禍の産業保健活動の実際と展開のヒント

宗像 かほりさん

深田 尚弘さん Fukada Naohiro

日本ビルコン株式会社 
経営戦略本部 フィールドサポート部

コロナ禍こそ従業員の一体感を促そう

遠隔技術を取り入れつつ、対面のコミュニケーションと一体感を重視

―労働者のストレスを下げるために、これまでの工夫や配慮をしたことや、試行錯誤を続けていることがありましたら、教えてください。
 当社はビル建物の空調、衛生、電気、情報通信などの設備の設置、修理、改造、設備、保守を行なっています。お客様の現場で作業することも多いため、社員同士の情報共有には注意を払っています。当社でもコロナ禍のためテレワークを導入していますが、便利な一方でコミュニケーションが希薄化しやすくなると考えました。そのため、メールで完結するだけではなく対面で会った際には改めてきちんと伝えること、メールを送った後は一声かけることが、「コミュニケーションを高めるには大切だ」ということを伝えました。久しぶりに会って顔を合わせれば愚痴を言われるなどのことはありますが、本人にとっては良いガス抜きになっている部分もあります。また、WEB会議を通して頻繁に打ち合わせを行うことにより、コロナ禍前より交流が増え、結果として、事故も減少傾向になりました。

WEBカメラの活用も図っており、例えば、現場と本部をWEBカメラで繋ぎ、多角的な視点からアドバイスを行うことができ、遠隔地でも変わらぬ技術水準・安全サポートを担保できたりする体制を整えています。こういった新しい試みについては、ただ導入するだけでなく、より良いサポートができるよう、現場と経営戦略本部で擦り合わせを行いながら、具体案を出して取り組むことを意識しています。

コミュニケーションの問題は経営議題にもあがります。当社は人事異動が少ないという特徴があり、必然的に家族以上に長く過ごす同僚などもいるため、自然とコミュニケーションが深まりやすい環境があります。それでも、年代が上の社員と若い社員との間では、先輩や上司の背中を見て仕事を覚えた上の世代と仕事はきちんと教えて欲しいと考える若い世代の違い、といったように、求めるコミュニケーションのあり方が異なります。ある上司は、そうした世代間ギャップを越えるため、”ポケモンGO”をダウンローそして使うなど、若手社員との会話の材料づくりをしています。このように、会話のしやすい雰囲気づくりによって、仕事面でも方向性を確認したり、問題点を共有しやすくなっていると感じます。

このような配慮はしていますが、やはり若い社員の離職対策は課題です。個人の価値観が優先される社会的な流れの中で、会社全体としてのつながりが薄まっているように思います。

以前、福利厚生の試みの一つとして、老若男女ができ、身近な娯楽としてボウリング大会を実施しました。しかし、全国の地域をカバーできるほど、ボウリング場の施設も整っておらず、一部の社員からは不満もあったため、現在では行っておりません。福利厚生制度は、全社員が享受できるものがベストと考えておりますので、難しい課題でもありますが、社員の満足度を高められるような福利厚生制度も見つけていきたいと思います。離職者対策としては、他部署の上長が入社5年未満の社員に対して、直属の上司には言えないホンネの部分を吸い上げるために、他部署の上長がヒアリングを行い、面談を行っていたりして、職場環境のカイゼンなどを図っています。

企業理念を浸透させ、従業員の良いところを見える化していくことでポジティブメンタルヘルスを実現したい

ーコロナ禍での活動を通して、良い産業保健活動をするために大切にしていることや想いがありましたら教えてください。
 普段接する社員同士のコミュニケーションはやはり大切です。特に、今回のコロナ禍では、縦割りではなく横の連携の大切さを痛感しました。私の仕事は、色々な職種の方と接する機会も多いので、橋渡し役になるべく活動していきたいと思っています。

食の部分も大切だと考えています。通常と異なるコロナ禍だからこそ、普段よりも五感を意識することが大切だと思います。活力というものは食によって生まれると考えています。睡眠と同じく大切なものです。私は特に朝食に注目しており、食を通じて社員とのつながりを強化したいと考えています。現状、社員のランチはコンビニ食やカップラーメンで過ごすことが多く、食の意識を高めていくのはこれからのため、どこまで浸透できるか現時点では明確ではありませんが、健康経営の一環としてもPRしていきたいと思います。

今後は、ポジティブメンタルヘルスにも力を入れていきたいと思っています。今は事後対応がメインですが、ゼロ次対応が重要です。従業員にとっても、ただ働くだけではなく、仕事の意味、価値を見出し、満足することは仕事の質に関わります。

企業理念やそれに対する思いをどのくらいの人が言えるのか、そしてそのような働き方ができているのか、そういったところを検討していきたいと思います。京セラの稲盛元会長のように、企業理念を大切にし、伝えていく役割を果たしていきたいと思います。この会社に入ってよかったと思える人を増やしていきたいです。

個人の持つ価値観を優先することを良しとする風潮がありますが、それだけになると、何のために入社したのかわからなくなります。当社はヒトにとって欠かすことのできない空気を扱う会社です。設備の業務は人が直接目にすることは少なく、達成度合いの進捗が分かりづらい業種ですが、快適な空気環境を作り上げている仕事に携わっている当社の従業員には、仕事を誇りに思って欲しいし、家族にもそのことを伝えて欲しいと思っています。会社だけでなく家庭でも、良いところを褒め、やりがいを感じたことなどを話してもらえるようになるといいと思います。そして、そのようなことや思っていることを見える化する必要があると思っています。見える化しないと浸透しません。また、見える化することで、第三者からは社員の働く活力を知ることができます。そのような相乗効果も期待したいと思います。

コロナ禍ではできないことが注目されがちですが、できないなりに工夫したり高めたりできた部分もあると思います。コロナ禍でもコロナ禍ではなくても日々の仕事にきちんと向き合っていくことが重要なので、日々工夫を重ねる中で、一歩先、二歩先と、未来を見据えていきたいと思います。

従業員のメッセージを公開しあうことで、つながりを強化

ー他事業所でも取り組めそうなお勧めの取り組みがあれば教えてください。
 評判が良かった取り組みは、従業員のメッセージの公開です。年末年始、「コロナをみんなで乗り越えよう」をテーマにして、「ポジティブになった行動」「自分自身の決意表明」「同僚への応援メッセージ」を支社別にそれぞれパワーポイント1枚にまとめました。これは従業員の見える化や相互のつながりを意識しての企画でした。

(2021年10月中旬、聞き手:小林由佳、照井林陽)

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