長井 聡里さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

コロナ禍の産業保健活動の実際と展開のヒント

宗像 かほりさん

長井 聡里さん Nagai Satori

株式会社JUMOKU 代表取締役
医師

地域の垣根を越えて、オンラインの可能性を活かす取り組み

コロナ感染への地域差がある中で、柔軟に産業保健サービスを届ける

―担当企業の概要とコロナ禍での状況について教えてください。
 感染者数が少ないある地方の①役場(200名以上)、②病院(200名以上)、③社会福祉協議会(100名以上)、④電子工業(部品の生産工場)(200名以上)の4か所について紹介したいと思います。

①役場については、特にワクチン接種関係の業務が大変で福祉課中心に過重労働での不調者も続出しました。②病院は、体制をしっかり整えて頑張って対応されていました。私自身が感染者数の多い大阪におりましたので、感染者が増えた場合の少し先の状況について話をすることができました。③社会福祉協議会(高齢者施設、介護)は、高齢者と接するため、自分たちが絶対感染してはいけない、感染させてはいけないというプレッシャーを抱えておられました。④電子工業は、工場を止められないというプレッシャーの中で仕事をされていました。

地方特有かもしれませんが、緊急事態宣言下にある都道府県からの訪問を控えて欲しいという要望もあって、現場に行けないタイミングが多々ありました。とはいえ、訪問ができなくなった時に、オンラインでつなぐという発想がない事業場が多かったので、どのように産業保健サービスを提供できるかという課題に直面しました。

①役場は、もともとセキュリティがしっかりしたテレビ会議システムを使っていましたが、相手側も同様のシステムを使うこと前提の利用方法でした。当初、オンラインツールの脆弱性について様々な噂が広まっていたので、利用を断られてしまい、まさに「来るな」「つなぐな」の状況の中で、どう支援を行うかが求められました。そのため、2020年4月~5月はテキストベースの情報提供ばかりを行っていました。2020年6月頃から徐々にオンラインツールに対する理解が得られるようになり、ツールを使って安全衛生委員会に出席したり、面談をしたりすることができるようになり、メンタルのフォローもできるようになりました。その後は、「緊急事態宣言が解除されるごとに現地に行く」というスタンスで職場巡視のための訪問を積極的に行うようにしましたが、業種によって訪問の可否が異なっていました。役場と社協はOKでしたが、病院はNGでした。工場はオンラインのシステムを持っていなくて、しばらく「来るな」「つなぐな」「つなげない」の状態が続きました。そういうやりとりが5回ほど続いて、ようやく職場巡視の必要性からオンラインシステムの準備をしてくださいました。

オンラインツール活用の可能性と難しさ

産業保健に関して、遠隔でも対応ができるということがわかってくると、何かあったらオンラインで相談するという流れができてきました。また、オンラインツールを活用して地方でも色んな取り組みができるということがわかると、「コロナ禍だから」というよりも、日ごろ産業保健を提供できない地方にも産業保健を届けることができるということがわかってきました。そして、そういう“仕組み作り”に取り組んでいったらいいんだなということも見えてきました。ただ、都会の大企業とは違い、地方の中小企業に十分な面談環境があるわけではなく、面談時に個室が準備できないなど、場所の確認に気を遣うことも多かったです。面談の際は会議室に誰もいないことを確認しながら進めるよう意識していました。

大阪で在宅勤務を奨励していた会社(建設系大企業)では、職場巡視のツールとしてスマホを活用していました。安全衛生委員会はオンラインで20名くらいが参加していましたが、産業医がスマホをもって職場をまわり、他の人は在宅で確認していました。営業の方は車の中から参加される方が多く、歩きながら参加するという方もいて「危ないですよ」と注意する場面もありました。オンラインでどこでもつなげてしまうので、無意識に危ない方法をとってしまう方がいたりして、その点、注意する必要がありました。

この会社では、在宅勤務を奨励するあまり、3ヵ月に1回出社するかしないかという人や、ずっと会社に出てきていないという人もいました。シフト制であれば順番で出社する機会もありますが、そうした機会もないので、出社するタイミングをつかめず出てこれなくなった状況です。コロナ禍で出社しなくなった人を、どう会社に戻していくかがテーマになりました。生身で会って会議をして、すれちがい様に話をすることの効果を大切にしていたので、むしろ出社を奨励していました。

この会社では、健康アンケート調査を実施していましたが、追加項目として「どんな人が出社しないか」を調べて欲しいという要望がありました。出勤比率と背景要因との関係を探ってほしいと頼まれ、現在解析をしています。「コロナのことを怖がっているかどうか」という質問項目が入っていますが、その影響はありそうです。

 

孤立を防ぎ、コミュニケーションを図れる工夫を取り入れる

―これからどのような活動を進める予定ですか?
 職場の模擬巡視(オンライン上の巡視)について、学会等で発表する予定です。アンケート協力者に自宅等の作業環境について写真を送ってもらい、その解析から環境についての課題をどう解決するかをまとめています。

在宅環境については、情報機器の取り扱いについてのガイドラインも出ていますが、ガイドライン通りに自宅環境を整えるのは難しいと思います。1割くらいはの方は座卓(和室)で仕事をされていますし、立って仕事をされる方もいます。色んな環境があります。私たち産業保健スタッフは、ガイドラインを押し付ける側ではなく、自宅環境でその人にとって何が一番適切かを相談できる相手にならないといけないと思っています。リビングで仕事をしている方も多いのですが、リビングの椅子はオフィスの椅子とも違いますし、長時間座っていることを避けさせないといけません。オンラインでの業務は時間が来たらすぐ始まって、間がなく、移動もなく、それ自体ストレスになったりします。そのことについて安全衛生委員会で話したところ、会議は5分程度早めに終わって、少し時間をあける習慣をつけるようになりました。

また、その会社は安全衛生委員会の際に、必ず全員画面をONにして、1人ずつ発言させるように工夫をされていました。今の状況はどうですか、コロナ禍でどうですかと確認しながら、コミュニケーションを意識的に図ろうとしていました。そうすることで、問題がスムーズに上がってきていました。通信環境を気にして、発言者のみ画面をONにして要件のみ伝えて終わる形式も多いですが、それはあまりよくないと思います。通信環境は悪くなりますが、一人一人の顔が見えて、いつでもしゃべることができる環境を作る事で、職場の風土としてその職場の問題点を言いやすくなるように思います。

―全体的な雰囲気のよさ、心の健康度が高いといった印象はありますか?
 問題を早めに拾い上げてきてくれるように思います。例えば、去年は「新入社員を一番にケアしましょう」ということで、新入社員の方は支援が手厚く、みなさん結構元気でした。その

一方で、手厚くされなかった入社2年目以上、特に4~5年目の方たちが一番苦境に立たされていたように思います。独り立ちをさせられる方々ですが、何か聞きたいときに上に聞けないし、下の面倒もみないといけないといった状況で、2021年の2~3月に遅れて不安定になってきたように思います。若手で一人暮らしですし、つまづき始める。そういった情報を安全衛生委員会で話すと、みなさんがその対象にアプローチしてくださったりしました。

―入社4~5年目の方がしんどい状況とのことですが、その傾向は他社にもあてはまりますか?
 そうですね。テレワークを推奨している会社はそういった傾向があると思います。大企業ほど新入社員を手厚くできる環境がありますよね。4~5年目とか一人暮らしの時、在宅でずっと部屋に一人きりというとき、たまたま先輩が近くに住んでいてランチを一緒に食べるようにしたとか、1人を救うことを一生懸命周りが支えてくれたところは、割と大丈夫ですと言い始めました。

昨年の夏ごろから職場に対しては、孤独と孤立を分けて説明するようにしていました。「孤独はそれが好きな人もいるので無理に改善とは言いませんが、孤立はいけませんよ」と伝える取り組みをしていました。
 

混乱を整理して安心感を与える役割を担う

ー産業医の指示がすぐ全体に伝わるという感じでしょうか?
 コロナ禍でトップダウンが顕著になったように思います。コロナに関する心配事は産業医に聞かないと分からないとみなさん思っていますし、私も医療の代表として、現状をどうするかについてお伝えしないといけない立場なので、そのことが毎月みなさんの楽しみというか、何か新たな情報をという思いでみなさん聞いてくださりました。私の発言が以前にも増して重要なものになったように思います。

ー最新の情報を得ながら説明をしていく、コロナ以前と比べて情報の準備は大変になりましたか?
 大変です。情報もコロコロと変わっていきますので。特に、世間的な情報の流れを大事にしていました。日中、テレワークでTVを流しながら仕事をする人もいて、みなさん色んなことをおっしゃるので、どこから情報が入ってくるのかということについて理解しておかないといけませんでした。正しい情報だけでは動いてくれません。入ってくる情報から勝手に不安になっている方も多くいました。ガセネタなど色々です。

例えば、ある中小企業で、社長が「この先ずっとテレワークにするぞ」と方々に言ってしまったんです。それをアルバイトの方が信じてしまって「私は出社しません」となって、正社員だけが出社することになってしまいました。アルバイトを説得して出社させて欲しいと頼まれました。本人のコロナ禍に出勤する不安材料として「あそこが痛い、ここが痛い」という体の不調を訴えるわけですが、それで出社できないというのは理由になりませんよ、診断書が必要ですよということを順序だてて説明しました。在宅が奨励されることの基準を曖昧にしてはいけないなと思いました。

状況が落ち着いた時に、怖がっている人たちに対して「こうやったら安全に考えられませんか」ということをオンラインで説明することもありました。何が安全で何が感染リスクとなるかを個人個人に分けて考えてあげました。

全員が発言できるミニセミナーを活用して孤独を解消

ーおすすめの取り組みはありますか?
 孤立の解消という点では、小さなミニセミナーを実施して産業医を登壇させてくれる会社がありました。参加人数も10人くらいなので、みなさんが発言しやすいようで。必ず発言できる取り組みをしているところですね。コロナ前にはやっていなかった取り組みです。オンライン飲み会がいいですよね、という話もあって、ちゃんとした飲み会(お茶会)を昼にやってくれたりすることもありました。

ーミニセミナーはいいですよね
 ミニセミナーを極力開催することは大事な取り組みだと思いました。 1対1も大事ですが、人の話を聴いて、自分もそうだなと考えたり、色々混ざるじゃないですか。今までは生身でできていたものが今はできないので、あえてそれができる環境を作るという意味では10人以下の少人数がいいと思います。 「女性の健康」「乳がん」etc.健康だけでなくて色んなテーマで実施されていました。

職場巡視を続けながら、言葉にならない情報を感じることが重要

ーコロナ禍の産業保健活動で特に大事にされていることはありますか?
 まず会った時に「大変ですね、頑張ってますね」とこちらからねぎらいの言葉をかけるようにしています。当たり前でわかっていることですが、あえて伝えるようにしています。あとは手振りを必ず入れるようにしています。オンライン上でも話だけではなく、そばにいるよということを伝えるために手をふったりもします。両手で手を振ったりして。みなさん一瞬笑ってくれて、それだけでも緊張が一瞬とけるじゃないですか。

ーほかに工夫をされたことってありますか?
 出勤している社員が少ない事業所も、極力産業医が訪問できるようお願いするようにしていました。ほとんど人がいない事業所で、「出勤している人がどういう状況下にあるか」というのも大事なので、巡視をして、「こんなことが大事ですね」と伝えています。

ある工場の例で、密にならないように早朝から深夜まで何段階ものシフト制にした事業場があります。当初は県をまたぐので行かない方がいいかなと思っていたのですが、実は「(産業医の視点で)現場を見たほうがいいと思いますよ」ということで行かせてもらったら、日ごろは5Sがちゃんとできていた会社なのですが、非常に雑然としていたんです。みなさんのシフトが細かくなったことで、お互いに声をかけあっていないため、何となく荷物を置いたり、危ないとまではいかないですが、工場が雑然としていてなんとなく片付いていないなということを感じました。まさに、職場をみて、これがコミュニケーションがとれていないということだなと現場も気づかれて、早急にコミュニケーションの工夫に対応してもらいました。私は現場主義なので、産業医は現場をみて「なんぼのもの」かなと思います。みなさんが行けなくても私は行かせてくださいと伝えている。

ー言葉にならない情報がたくさんありそうですね。
 そうですね。みなさんはシフトを組んだりするとコミュニケーションが減っているので、お互いの情報を共有する場がありそうでないんですよね。職場単位になると職場の中の人とは話すけど、オンラインで一番みなさんがおっしゃるのは隣の部署の人と話さなくなったという方が非常に多いんですね。休憩時間とか、食事時間に全く関係のない人と話したりすることができていたのができなくなった。そういう垣根を越えられなくなったってところを、多少なりとも私たちの役割って、それが穴埋めできるというかつなぐ役割ですね。小さなミーティングをするっていうだけでも色んな人が集められる場なので、日頃部門ごとに交わらない人を集められる、そういう場の主催者になれるという部分はあるかなと、なので、現場が一番わかっている立場にいないといけないなと思います。

復職支援におけるオンラインならではの視点

ー試行錯誤されてこれいいなとか、よくなかったかなというのはありますか?
 いいなという点では、復職支援について考えることがありますよね。今までは、復帰の条件として「毎日会社に通えること(満員電車乗れますか等)」を前提に対応していたので、リワーク施設に行かせなくても、リモートのリワークなど自分たちでも(復職準備のプログラムを)作れるかなと考えたりしています。

今まで、直接会うのが大前提で、月1回訪問ではできることに限界があったのですが、職場復帰のタイミングを見計らってリモートで面談すること等が考えられるかなと。実際、リモートでのメンタルの面談は増えたように思います。会社に行って、オンラインでつないでもらう形式です。何等かのかたちでオンラインを復帰支援のツールとして使っていく活動はやっていった方がいいなと思います。

―復職で目指すゴールに違いはありますか?
 当初はリモートでの復帰は絶対ダメと思っていましたが、本人の上司から「これからはリモートに耐えうるかということも大事な視点になる」と言われました。確かに、リモートで成果を出すのも大変なことで、一方、出社しても座っているだけという場合もあるので、どちらがいいというわけでもないように思います。リモートでの復帰の基準を考えないといけないなと思います。

発達障害の事例では、会社で対面するとコミュニケーションがあまり上手でなくて、最後に肝心なことをいうようなタイプの方も、リモート面談に変えるとヘッドフォンをして、雰囲気も変わり、すらすらしゃべられる。聴覚過敏の影響で、会社に行くと周囲の声がごちゃごちゃして集中できないみたいです。在宅になると、しっかりした表情で対応できる。一部の方にはリモートで集中できる環境は好ましいし、特性がいい方向で活かせるなと思うのですが、ただ、彼も出勤が主体になると適応が難しくなっていきました。会社で耳栓をさせてあげてくださいと条件には入れたのですが、本人もそればっかりでは会社で仕事ができないので、リモートに向く向かないという基準、我々がどういうことを判断基準としていれるのか、初対面だとわからないですよね。これから検証しないといけないんだなと思います。

 ーいまでも試行錯誤をつづけていらっしゃることはありますか?
 私自身の問題だと思うんですが、私は生身の人を、空気を読むって言いますが、その場で色んな情報をとりたい立場の人間なんです。空気感というか。部屋に入った時のしぐさから全身の見た感じ、時には匂いなどから、色々なことを観察して情報処理をしていると思うので、多分私自身のパフォーマンスは落ちているように思います。

オンラインの中しかわからない中で、自分の判断がどこまで正しいか懸念があります。発達障害の事例のように、環境によって相手の様子も変わるので、情報が偏ってしまいます。

メンタルヘルス不調の場合はオンラインで特徴が顕著に出るように思います。まず、調子が悪いと連絡が取れなくなります。次は、調子よくなっても画面がオフだったりして、次に顔は出してくれて、おうちの様子もみれるようになります。調子とともに段階的に見えてきたりします。オンラインだとメンタルの調子が上がってくる状態がよくわかるなと思いました。

人によっては、面談中に人事からのツッコミをうけてオンラインをプチっと切ってしまったりした人もいました。数分経って入ってきましたが、通常対面ではありえない状況です。こちら側は明らかに感情が害されたわけですが、本人はしれっと「通信環境が・・・」と言って戻ってきたんですよね。

メンタルだけじゃなく色んなケースについて、私たちの方が今までと違う見方ができないといけないなと思います。今までもっていたスキルのパフォーマンスが落ちたと思うのではなく、そういった気づきを次にどう生かすかということですかね。

ただ、やはりオンラインは疲れますね。嘱託産業医の場合は会社の数だけツールがあるので、 Zoom、Teams、Google Meat、Webex etcいろんなツールになれないといけないですし、それが大変ですね。本当に会社ごとに違うなというのがコロナ禍で一番大変なことでしたね。

“変化すること”を怖がらせないアプローチ

―PR、こうしたほうがいいよということはありますか?
 コロナ禍に限っては変化に我々もついていかないといけないし。一般の方って変化しないことを望まれているじゃないですか。「元のように戻りたい」と。実際は、変わっていくんですよということを、元の様に戻りたいではないことをどうやって伝えていくかが大切だと思います。

私は「変わりますよ」ということを意識的に言っています。変わるという覚悟の中でこんなことをしましょうと、先回りして言っていかないと、変わらないっていう前提の中で崩れていく方が結構おられるなという実感があります。

―崩れるっていうのは調子が悪くなるということですか?
 そうですね。結局、元気な方でも2年近くなるとみなさんくたびれてきますよね。元気だった方がなんか調子悪いですっておっしゃるんですけど、「結局それって、コロナでこんなことができないからじゃないですか?」と伝えると「そういえば好きなことできていないな」とか、「わかっているんだけどできていないこと」に改めてちゃんと気がついてもらって、じゃあ今何ができるんですかねと、やっぱり元気になる方法を自分で探しに行ってもらわないといけませんよね。なので、変化についていきましょうっていうことをいかに伝えるかですよね。変化するよっていうことにどう備えさせるか、そういった意識付けの言葉かけを怖がらせないで伝えることですね。

―個人に対しても企業に対しても?
 そうですね。企業の担当者にも「変わっていきますもんね。これからどうしますか」と常に言っています。個別のケースでお話をしているとき、その人が変わろうとしている時にどんな不安を持つ人なのか、何か聞き分けて自分では対応していこうと意識しています。
やはり、小セミナーがたくさんできたらいいなと思っています。

(2021年10月下旬、聞き手:栗岡 住子、馬ノ段 梨乃)

interview82

社名「株式会社JUMOKU」の由来
https://jumoku.co.jp/about/

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