宗像 かほりさん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

コロナ禍の産業保健活動の実際と展開のヒント

宗像 かほりさん

宗像 かほりさん Munekata Kahori

日本メジフィジックス株式会社 人事部
保健師

江口尚さん

溝口さん Mizoguchi

日本メジフィジックス株式会社 人事部

人事・保健師チームのオンライン個別サポートで、問題の見える化を実現!

完全在宅勤務下においてコミュニケーションの問題が出てきた

―コロナの感染症が出てから社員のストレス状況は変わりましたか?
 リフレッシュができなくなったとよく聞きますね。週末出かけられないとか、飲みにも行けないとか。そういう話はちょこちょこ聞きます。
 通常業務に加えて、感染対策もあるので、業務上やることも増えています。
 部署によっては、コロナで大幅に変わったところもあります。営業所は全拠点を閉鎖して全員が在宅勤務になったので、MRや事務スタッフは家で仕事をしています。製造部門以外、会社の4割くらいは在宅勤務になりました。ただ、コロナによる変化というより、もともとテレワークを進める話があったので、それがコロナで急速に早まったという印象です。

 ―仕事上での新たなストレスはありますか?
 コミュニケーションがとりにくいという話は出てきました。相手が見えないので今相談できるかわからないとか、ちょっとした立ち話ができないとか。わざわざ時間をとって聞くまでもないことを聞けないとか。ちょっとした相談ができないとか。

 ―工夫されていることはありますか?
 営業は仮想オフィスを作って、集まったりしているようです。午前中の決まった時間、空いていたら入るようにしているようですが、あまりうまくいっていないようです。 10人集まってもそこで会話ができるのは1対1か1対2くらいなので、人数が多くなるとやはり難しいようです。職場にいるのとはちょっと違いますね。職場にいるとちょっと離れていてもコミュニケーションに関するケアはできますが、オンラインだと限られてしまいます。この人には聞かれたくないのにというのもあって。上司がいるところで、「さっき言ってたことわかんないんだけど」とは言いにくいですし。それで、別ルーム機能を使いたいって、希望されたりもします。

―今後の改善が必要な部分もある?
 コミュニケーションの質を上げることは必要だと思います。お互いの違いを理解しあって、お互いのことを知り合うところにコミュニケーションの本質があると思うので、手段がどうということではなくて、そういったことを教育していくことが重要だと思っています。

相互理解を高めるために、コミュニケーション教育を強化

―その他、社員の状況に変化はありましたか?
 去年のストレスチェックの結果はよかったんですが、今年は少し悪くなっていました。特に、テレワークを導入した部門がそうでした。去年はコロナだから仕方ないよねというのが通用していましたが、今年は変化が当たり前になってしまったので、「仕方ない」が言えなくなってきたのかもしれません。他にも、新入社員や入って間もない人など、リアル場面でのコミュニケーションが確立していない人がいきなりテレワークになったケースはストレスが高いように思います。教育体制もテレワーク向けではないので、大変だと思います。

―何か対策は考えていますか?
 教育体制についてはこれから変えていこうと思っているところです。今まで、新入社員は全体では2週間の研修を行い、その後営業では外部の教育機関で1ヵ月くらい研修をして配属され、すぐにテレワークの環境となっていました。それだと周りの人に気兼ねなく聞ける状態までにはならないので、研修期間をもう少し長くすることもと考えています。本人たちには会社のことを知ってもらわないといけないですし、会社も彼らのことを知らないといけません。コミュニケーションの取り方を教えていけたらと思っています。対面で得られる情報と比べると、オンラインで得られる情報は少なくなります。自分が受け取る情報と相手が発信している情報が必ずしも一致しているわけではないので、相手がどういう受け止め方をしているか、しっかり確認できる人を増やしていけるようにしたいと思っています。

 

産業保健に関わる情報のデータ化と管理の重要性

ー産業保健職としての課題はありますか?
 働き方の選択肢が増えたのはよかったと思います。
 保健師の業務としては、情報の整理が課題だなと思いました。これまでは、健康診断の結果は紙とエクセルを使っていて、面談の時は一緒に見ながらやりとりをしていましたが、オンラインでの面談になって、面談のために全てPDF化したり、他の人の結果を開けないようにファイルを別にしたり等注意し、画面上で共有してやっています。便利さを使うまでの準備が大変です。システムが入っていれば、同じ画面を共有をすればいいのですが、テレワークに合わせた情報管理、ツールを使わないといけないと感じます。面談もシステムが整っていれば、システム上に面談結果を記録していけばいいですが、今は手書きのメモを使っているので、それをデータ化するのも大変です。会社にデジタルトランスフォーメーション部ができたので、健康管理もシステム化が進んでいけばいいなと思います。

―在宅勤務で保健師が面談をする際の工夫していることはありますか?
 面談件数をあまり入れすぎず、無理をしないようにしています。面談時の資料は出社した時に揃えて、出社した時でも家でもできるようにまとめるよう気をつけています。あとは、保健師が1人なので自分の頭の中で対応できるというのがメリットでもありデメリットでもあります。自分の頭の中をちゃんと出していかないといけないなと感じています。
 

メンタルヘルスの問題に早く気付くための対話とラインケア教育を重視

―人事としての課題はありますか?
 調子が悪そうだなという人について、会社にいれば表情に出たりするので気づけますが、電話だけ、チャットだけという人の場合は、異変に気付くのが遅れることがあります。突然「仕事してないんだけど」「会社来てないんだけど」という事例がいくつかあったので、対応の遅れから重症化させてしまい、復帰を遅らせてしまうこともあるのではと思ったりします。
オンラインでのやりとりについては、最初はシステム上で負荷がかかるので画面をOFFにするよう厳しく言われていた時期がありました。それで、画面をoffにするのがマナーになってしまい、今でも画面offの人が多いように思います。画像が見えないと、不安ですね。

ー管理職研修で対応の重要性を伝えたりしている?
 現在、研修の計画を立てているところです。労働時間についても、「気づいたら残業してました」「深夜までやってました」というのがあるようで、業務が見えない分、残業も多くなりがちです。働く側も「このくらい」という感覚があるようで、マネジメントだけの問題ではないと思います。そういう意味では、これまでの時間管理のあり方の限界がきているように思います。本来、その場に何時間いたかではなく、その日何をしたかという「結果」を見て進め方を調整するのだと思いますが、これまでいかに時間ベースで働いていたかということを感じます。その点が変わっていかないとテレワークでは難しいように思います。

―今はアウトプットで評価しましょうという流れができつつあるのでしょうか?
 そうですね。ただ、今度は「期限までにこれを出してください」「終わっていません」というように、アウトプットしか見なくなっているところもあります。何が問題でそうなっているのか、そこは話を聞かないとできないので、マネジメントの問題にはなります。

オンライン化で、地域に縛られずサポートをすることが可能になった

―ストレス軽減で工夫していること、試行錯誤されていることはありますか?
 月1回健康相談室だよりを出しています。みなさんが興味を持ちそうなテーマをお伝えして、最後に相談先を案内するようにしています。「なんでも相談してくださいね」と案内して、親しみやすさを出すようにしています。そうすることで、遠方の人から面談を希望されることも出てきました。
 セミナーについても、今まで現地に行って対象事業所だけでやっていたのが、今は全社向けに一気にできるのは便利ですね。
 他にも、話してもらう機会を作っていくことが大事だなと思います。以前は全国11か所あるラボ(製造部門)に直接行って面談をしていたので、2~3年に1回しかまわれなかったのですが、今はオンラインで一気に関われるので、個別に話をする機会を増やしていくようにしています。それはうまくいっているように思います。
 ストレスは自分自身もやっとした状態であることが多く、自分がどんな状態なのか話すことで自覚できる部分があると思います。話すことで「(問題は)あっ、これだったのね」という気づきを面談で得ている人は多いんじゃないかなと思います。ただ、医療職や人事が直接、部下に話を聴くことに抵抗を感じる管理職の人がいるように思います。自分たちが責められるんじゃないかとか、余計なことを言うんじゃないかと不安に感じる人もいるので、そこの理解を得るのが大変かなと思います。ちゃんと理解してもらわないと、せっかくいいことしても悪く言われるのは悲しいので。製造部門(11か所のラボ)は工場長の理解が得られているので面談ができますが、そこの障壁の高い部署ではまだ実践できていない状況があります。

コロナを組織的な課題が顕在化するきっかけととらえる

ー大切にしていることはありますか?
 コロナのことをマイナスに考えないように、コロナのせいにしてしまわないように、対話の中で気を付けています。
 コロナでコロナ前の問題がクリアになっただけなんだろうなと感じることがあります。マネジメントの問題、個人の自己管理の問題も、もともと両方あったと思います。今は、必要性が高まったり、やり方を考えなきゃいけなくなったり、直面せざるをえなくなったりしているだけかなと思います。
 今はやっと、そこにある問題がわかるようになってきたという段階に思います。問題がクリアになってきてよかったというか。まだやっとだと思います。まだ山のようにあると思います。

人事、保健師がチームとなって、個別面談を行う取り組みの促進

ー今後の活動について。おすすめはありますか?
 Web面談をどんどん活用していけたらいいなと思います。あと、コミュニケーション活性化を目的に総務が主催している活動で、各地の事業所の名産品を他の事業所に勧める取り組みが始まりました。各地の事業所のおすすめ品がメッセージ付きで他地域の事業所に届く仕組みです。届いた感想やメッセージを総務でまとめてweb上にアップしてくれます。今、コロナであちこち旅行にいけないので、地方のものを味わうチャンスにもなっていいですね。
 あと、1回でも面識がある人には相談しやすいと思うので全員面談ができたらいいなと思っています。 今は、個別を進めていくチャンスだなと思います。今までは、ストレスチェックの集団分析結果が悪い事業所があって、遠方だとなかなかアプローチができませんでしたが、今はwebが使えるので事業所のひとりひとりと面談をして、気持ちを聴いたり、疑問に感じた事をなんでも吐き出してもらったりする場を作りました。基本は1人30分ですが、長くて2時間くらい話を聴くこともあります。保健師と人事、2人で対応しています。社員の反応としては、今まで聞いてもらえる機会がなかったようで「こんなことも言っていい?」ということがたくさんあって、言ってくれたらすぐに解決することもあったので、そこを出してもらえてこちらも聞けて、実施してよかったと思います。社員1人1人との距離も縮まったと思います。人事、保健師が何をしているか知ってもらうきっかけにもなりました。そういう意味では、人事も心理学やカウンセリング技法を学んだ方がいいと思います。人の話を聴いたり、受け止める技術を学ぶことは重要だと思います。

ー人事も含めて全員面談というのは少ないと思いますが。
 溝口さんだからできたんだと思います。属人的にならないようにするためには、人事の人にはそういうところに興味をもって学んでもらいたいです。今、人事の中でそういったノウハウを伝えて、同じことができるように教育をしています。

―そのほか、思うことは?
 研修も昔はリアルで休憩をいれながら2時間とかやっていましたが、Eラーニングだと2時間はとても長いですし、新しく入ってきた人はTikTokのようなメディアに慣れていてごく短時間しか見られないということがあったり。Eラーニングは1.2倍、1.5倍で見られるのはいいのですが、、、最近倍速でみる癖がついて、映画もゆっくりみられなくなってしまったようで。

ー常に時間に追われる感じ、早く処理したい感じがある?
 自分としてはそう思います。自分のペースでみたい、自分のペースでやりたいという気持ちが以前よりも強まっている様に思います。これから、いろんなところで差が出てきて、広がっていくように思います。

―ありがとうございました。
(2021年11月中旬、聞き手:栗岡住子・馬ノ段梨乃)

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