小笠原隆将さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

インタビュー

小笠原隆将さん

小笠原隆将さんOgasawara Takayuki

三菱ふそうトラック・バス株式会社 
人事本部 HRマネジメントサービス部 
安全衛生 ヘルスケアセンター 
産業医

多様な環境下の従業員と家族のニーズに寄り添う支援を

全国の社員へ適切な情報提供

―今回のコロナ感染症により、関わる企業ではどのような変化がありましたか。
 当社はトラックおよびバスに関連した製品およびサービスの開発・生産・販売を行っており、私は関東の製造ラインがある本社工場の専属産業医をしております。また、全国の販売部門で主に50人未満の産業医選任義務のない拠点で、臨時の面談業務があった際に対応をしております。今回の新型コロナ感染症感染防止策として、本社工場の間接部門は在宅勤務となりました。製造ラインは、部品供給の滞った4月中旬から5月上旬の間は不就業扱いの休みとなりましたが、それ以降は感染対策に注意しながら製造を続けています。また、全国の販売部門では出勤による就労が継続しています。

 今回、最初に行ったのは体調不良者の健康相談と、感染予防対策に対する助言、安全衛生委員会での講話、情報提供でした。安全衛生委員会では、WHOのストレス対処のための6カ条(Coping with stress during the 2019-nCoV outbreak)、ILOの作業環境における筋骨格系疾患予防の注意点(Ergonomic tips when teleworking)をそれぞれスライド一枚にまとめて説明し、各部門へ落としてもらいました。販売部門においては、全国各地区の総務担当を経由して、情報提供をしています。また、契約しているEAPからセルフケアや在宅勤務時の会議の仕方と注意事項に関する情報提供を受け、安全衛生委員会から各部門に流しています。

不公平感に対し、まずは物質面からできる限りの対応を

 感染症の非常時対応として、全国の販売拠点における健康相談にも対応するようにしましたが、オンライン主流なのは都市圏の話で、地方や業種によってはオンラインの端末がないことも多いため、基本は電話対応になります。感染リスクのある中で出勤せざるを得ないエッセンシャルワーカーなどから、様々な不安の声があがりました。同様の声は経営層を含めた会議や、部長級との会議でも共有されています。

 多かったのは不公平感の訴えで、例えば不就業/就業継続、在宅勤務/出社勤務、不特定多数の顧客対応のあり/なし、などの違いへの不満があがりました。特に対策が不十分な状態で働くことへの不安には可能な範囲で対応するような会社側の姿勢もあり、物資面での対応として、2月中旬から4月にかけて会社の備蓄品(マスク)を配布、工場で消毒液を作って販売部門へ送付、といった対応がとられていました。

発熱者へのケアは多角的に

 当社では社員10000人のうち新型コロナ感染症への感染者は出ませんでしたが、「一人目の感染者になる不安」は社員やその家族の間で強くありました。そのため、この期間の発熱者へのフォローは本人だけでなく、多角的に行いました。

 必要に応じて家族へのフォローは行うことがありましたが、発熱した社員の家族と連絡を取った時、感染への不安とともに聞かれたのは、近所の目や今後のことへの心配でした。これらの不安や心配の声に対しては、具体的な数字や科学的根拠をもとに情報提供を行いました。現在の社内の発熱者の割合は全国の平常時のデータと同程度であり、過度に心配する必要はないこと、PCR陽性率は東京でも3−4%であり、検査に回ったからといって陽性になるとは限らないことなどを説明すると、ご家族も少し落ち着かれます。さらに、病欠者の出た事業所でも、憶測で噂が立つ前に、個人情報に配慮しつつ、人事担当者を通して本人の状況や状態についての情報を所属長に伝え、職場にも共有してもらうようにしました。

 実はこれにはきっかけがありました。北海道の感染が確認され始めた早い段階から、日本産業衛生学会のガイドラインに従い、既往歴のある方は感染リスク回避のため在宅勤務に移行させ、発熱者には一定期間休ませたのですが、職場への情報提供をしていなかったために、この丁寧な対応が逆に同僚の不安を煽ってしまったことがありました。それ以降は、事業所にも最低限の情報を流して不安を減らすよう配慮するようにしています。

第二波に備えて、意識変革の促しと支援のあり方を検討

 在宅勤務では、アウトプット管理を良くすることがストレスケアに直結します。在宅勤務中の復職支援では、心と身体の状態の変化のフォローが難しくなります。直接顔をあわせることができないので、上司側は日々の業務のアウトプットをよくみて、必要な時はケアにつなげなければいけません。社員側もアウトプットを意識して働く必要があります。ケアをする側も変わりました。リワークでは課題提出の方法が変わりましたし、社内では産業保健職が復職準備性をより正確に判断できるようにならないといけません。また、職場内に遠隔でフォローができる人を探しておかないといけません。このように、社員自身、上司、産業保健、医療サイドそれぞれの意識の改革が必要になっています。

 第二波に備えて、今からできる準備を進めています。例えば、受療時の感染リスクを下げるため、受療行動の変化のさせ方を示していく必要があると考えています。厚生労働省から遠隔診療が可能な医療機関のリストが出ていますが、これをもとに全国の各地区で遠隔診療の方法(電話、オンライン)別に、情報を整理し、提供していきます。

 また、新型コロナウィルスの影響で各企業の経済活動が打撃を受けることで生じる、雇用継続への不安にどう対処すべきかが今後の課題になる可能性があると感じています。全国的には非正規雇用者で雇用契約を終了されている人も出ており、これから大手企業でも雇用継続の危機が訪れるかもしれません。雇用状況が不安定になることで、体調不良者の増加、緊急対応を要する事例、精神疾患の症状増悪、ハラスメント問題の増加など、社員のメンタルヘルスに強い影響を与える問題が多く発生する可能性があると考えます。会社のリスクについて丁寧に説明を重ねる必要がありますし、産業保健職からは、そうした社員がどう次のステップに向かっていけるのか、どのような支援が可能なのかを考え、備えておく必要はあると思います。

―ありがとうございました。
(2020年6月上旬、聞き手:小林由佳)

 

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