田中三加さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

インタビュー

田中三加さん

田中三加さんTanaka Mika

製造業 看護職

チームでオンライン復職支援の質を高める

遠隔面談の前にはチームカンファレンスで面談の質を向上

―今回のコロナ感染症感染拡大防止のための働き方の変化に合わせて、どのような配慮をされましたか。
 当事業所では、4月に緊急事態宣言がでてから、原則在宅勤務が始まりました。私たち産業保健部門のスタッフは、十分な準備ができぬまま在宅勤務となり、緊急性の低い産業保健活動は、延期対応を図りました。メンタルヘルス不調者については、対応延期はできませんので、オンラインツールや電話で面談を実施しています。特に電話での面談は二者間の対応となるため、チームで関わることが難しく、対応の質が下がることが懸念されました。

  そのため、面談予定者については、事前準備を徹底しています。産業医、産業保健スタッフ内でチームカンファレンスを行い、面談時に確認することや話を深めるポイントなど、抜け漏れが無い様、チェックリストを活用し整合します。オンラインツールで複数名が参加する面談の場合でも、対面時のような間合いで話に入ることは難しいため、事前に面談のポイントを共有し対応しています。

 復職支援の時にもこの事前準備が重要になります。全体の流れを意識するため、復職に向けてのロードマップを作成し、チームカンファレンスで、面談の展開を想定して、問題点とゴール設定を行います。同様に上司に確認する項目についても打ち合わせを行います。事前準備の精度を高めることで、短い時間でも面談を有効に進めることができます。進め方は、まだ改善の余地がありますが、このような工夫をすることで、遠隔面談にチームで関わることができ、面談の質が向上していると感じています。

オンライン復職支援では、共通言語とツールによって上司との関わりを強化

―オンライン復職支援では具体的にどのような工夫をされていますか。
 当事業所の復職支援は、療養開始時から月に1回程度で本人と状況確認の面談を実施し、復職までのロードマップによる、現在の立位置を確認し、復職準備段階に応じた支援を行っています。オンラインで復職支援を進める場合に工夫している点は、①復職準備段階に応じた支援ツールの活用②上司面談の事前チェックリストの作成と事前回収です。②によって、上司からヒアリングしたい内容を事前に確認することができ、効率よく話を深めることが出来ています。

 復職前の上司面談では、上司から見た休職者の強み、弱み、本人に得てほしいスキル、不調の要因、本人の希望と会社の期待のギャップ、職場の状況、そして上司の不安などを確認し業務プランや対応プランを作成します。

  在宅勤務では、上司からのモニタリングの質を高めることが重要だと思っています。そのため復職直後の上司との面談では、モニタリングのためのチェックリストを作成しています。症状や勤怠などの変化をどのように確認するか、業務の指示やアウトプットはどのように配慮するか、仕事における復職者の弱みをどうフォローし、強みを伸ばすのかという点を整理します。それらに、復職判定会で出された留意点や健康管理センターへつなげるべきタイミングを加えた項目を共有します。上司にモニタリングいただくのは、現場で変化がわかりやすい項目です。一方で産業保健スタッフが確認するのは、表情の変化など専門性が必要となる項目です。このように得意領域を明確化して連携し、項目の変化を可視化することで上司と産業保健スタッフの認識合わせがスムーズになってきました。

 また、休職中の段階から、上司の心得ガイドラインも活用し始めました。今まで口頭で伝えていたことを、こうしてツールを整備して共有することで、共通認識が高まり、上司の不安の緩和にも役立っていると感じます。このように上司とのかかわりを強化するためには、情報共有、ツールを活用し共通言語で理解しあえること、上司の不安に寄り添うこと、が大事だと思っています。

復職者が自分で歩みつづけられるように支援することが大切

―休復職者本人へのアプローチで工夫されているのはどのような点でしょうか。
 休職者本人とは復職時にアクションプランを作成しています。休職中はツールを活用して、生活リズムの確認や、不調の要因の振り返りを実施します。

 生活リズムについては、自己申告による生活記録表と活動量計による客観的データを併用しています。不調の要因の振り返りの一環として、自己理解を深めるツールを提供し、自分の強みや弱み、また将来のありたき姿を整理してもらいます。

 過去の復職者の中には、会社に出社しているものの十分なパフォーマンスを発揮できず、低空飛行を続けているような方もいらっしゃいます。苦手を避け続けたまま時間が経過してしまい、環境への適応が一層厳しくなり、本人も居心地が悪くなり再燃し、与えられる仕事がさらになくなっていくという悪循環が発生しています。私はこうした事例を多く扱う中で、復職支援をする側の姿勢として「出社していればいい」では不十分で、本人がキャリアを自分で考えて歩み始めるところまで支援しなければ、再発予防にはならないと感じるようになりました。そのため、内省してもらう際には、仕事に対する価値観や自身がどういうところに楽しさや喜びを感じるかを考えていただき、「与えてもらう」という姿勢から、「自分ごととして考える」ことができるように促しています。休職期間中、体調が落ち着いてきている方にとっては、キャリアを考えるいい時間になります。他責に考えるのではなく、仕事の目的が自分のものになるようにサポートしていけると、復帰後のモチベーションを維持し、休職をバネにして自己成長につながるのではないかと思います。

職場・人事・産業保健のチーム連携で多角的な対応を

―遠隔支援を進める際の課題はありますか。
 遠隔支援で困るのは、関係者間で状況認識がずれてしまいやすいことです。お互いに分かりあったつもりで対応を進めても、想定と違う受け止めや結果になっていることがあります。そのために、より分かりやすい共通言語で対応を進めていくことが重要だと感じます。

  外部環境が多様化しているので、産業保健も多角的に対応していかないと、個々人に最適な支援が難しくなると思います。一人では視点が偏りますから、職場、人事、産業保健部門のチームでの関わりは不可欠です。私たちにとっても、他領域の関係者からの発想で気づくこと、考えが深まる事は多くあります。チームの連携強化には、関係者間の信頼関係は必須です。これからも頼られる存在になれるよう、チームのコーディネート役として日々研鑽していきたいと思います。

―ありがとうございました。
(2020年6月上旬、聞き手:小林由佳)

 

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