木内麻由子さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

フォローアップインタビュー

木内麻由子さん

木内麻由子さんKiuchi Mayuko

株式会社ハピネス・アイ センター長
精神保健福祉士

3分間スピーチや全社イベントで心理的距離を縮める

オンラインを利用した社内外の打ち合わせ、コンサルテーション、カウンセリングが急増

―現在の働き方はどのような状況でしょうか。
 弊社は、京都が本社でその他大阪、東京に事業所がありますが、その中でメンタルヘルスセンターの部門は京都と大阪に相談場所があります。2020年春の緊急事態宣言下においては、交代勤務を実施し一部の社員がリモートワークを行いましたが、6月以降、全社的なリモートワークは実施せず、全員が出社勤務となりました。
 一方で、相談業務も含めた業務活動や来所相談者に対しては通常と異なる対応をとってきました。来所相談を電話相談に変更することを提案して了承してもらったり、対面相談時間を50分から30分に減らしたりなどの工夫を組織として行いました。また、相談室では透明パネルを間に置いて相談を実施していました。相談室の換気、来所者の検温や面談後の消毒も徹底し、残業を減らして帰宅時間を早める取組みも行いました。その他、客先訪問や出張カウンセリング、社内集合会議を減らし、代わりにオンラインを利用した社内外の打ち合わせ、コンサルテーション、カウンセリングが大幅に増加しました。

 

リモートワークによるストレスを確認する

―契約企業様の従業員のストレスはどのような状況でしょうか。
 2020年春の緊急事態宣言時に比べると、環境の変化による顕著なストレス反応が出ている印象はありません。ただ、極端なストレス反応や不調になるまでは至っていないものの、公共の場における感染症の不安はありますし、在宅勤務から出勤勤務にもどるなど就業環境の変化には多かれ少なかれ影響を受けている状況が見られます。
 また、ストレスチェックの組織結果報告の際には、「リモートワークを行うことのストレス」が大きくなっていないか心配する声をきいたりします。自宅にリモートワークを実施する環境が整っていない(小さい子どもがいるなど)ケースでもリモートワークさせざるをえない状況があることへの心配です。また、家族が影響を受けて家庭内で問題化し、従業員本人に大きな影響をもたらしているケースもあります。

効果的だった3分間スピーチとウォーキングイベント

―ストレス対策としてやれたこと、やれなかったことを教えてください。
 会社の取組みとして「ウォーキングイベント」を開催したり、朝礼で3分間スピーチを始めたりしたことは、間接的に大きなストレス対策になったと感じます。
 「ウォーキングイベント」では、部署単位で1月と2月の歩数差を競うイベントを行いました。歩くことを意識することで、プライベートで自宅にこもる閉塞感が和らいだり、職場で話のネタになったりしました。
 また、3分間スピーチを行うことで、同僚との心理的な距離が縮まったり、他の人のストレス対処法を真似してみようという気持ちになったりと、良い効果があったように感じます。他の人の様々な一面を聞くことによって、つながりができ、胸のつかえがとれるような爽快感を感じたりしました。
 コロナ禍では、業務時間中の多忙さや職場環境の変化、マスクのため表情がわかりづらい等の影響もあり、コミュニケーション量が減少した状況があるかもしれません。そのような中で、3分間スピーチのように簡単にできる取組みによって、職場に良い効果をもたらすと身をもって感じました。

 

個人差が大きい環境変化への対応

―実践の中でどのようなことに気づかれましたか。
 2020年の春に比べて、環境の変化の受け取り方の個人差がさらに大きくなったような感じがしています。在宅勤務においてはラインによる早期発見早期対処(2次予防)が難しいと感じます。コロナ禍での就業や、在宅勤務は一定期間経験して勤務形態にも慣れた分、春よりも「慣れた」と感じる人が多数派を占め、「しんどい」と声を大きくして言えない人が重症化する要素が職場にはあると感じます。
 一方で「慣れた」ことにより、コロナ禍だからこそ「良かった」と思える要素があると感じます。

場所を選ばないオンラインサービス

―コロナ禍の良い影響(コロナ禍だからこそ、できたこと・よかったこと)はありましたか。
 2021年春に行った新入社員研修において、受講者からコロナ禍の環境変化に伴う「悪い」ことだけでなく、「良いこともあった」という反応がありました。弊社においても、コロナ禍のためにできないこともありましたが、一方で「オンラインを使用する」という点では、大きなビジネスチャンスとなっています。
 弊社は京都が本社ですが、東京本社の企業様へもメンタルヘルスサービスを提案する機会が大幅に増えたことや、あるいは、相談事業もオンラインを用いることで、今まで来所相談がかなわなかった事業所の従業員や家族の方からも直接相談を頂くことができるようになりました。
 私自身が、新型インフルエンザ流行期に海外の駐在員家族として現地で不安感を感じた経験から、コロナ禍で大きな影響を受けていると思われる海外駐在の従業員や家族の支援が、オンラインを使用することで容易になることが、非常に嬉しく感じます。また、育児の為に週末参加しづらかったプライベートの自己研鑽の研修が、オンラインで気軽に参加することが可能となったことも大きなメリットを感じます。

問題の発見が遅れることが心配

―現在問題と感じていること、問題になりそうなことはありますか。
 コロナ感染拡大の長期化に伴い、問題の発見が遅れるケースが生じないか対策が重要と考えます。

 

支援方法やコンテンツを増やす

―これからやりたいと考えていることはありますか。
 企業も個人も、環境の変化の受け取り方が異なるため、専門職としてフラットな状態で個人にも企業にも寄り添い、相手の感じていることを大事にしつつ、極端に良い面、悪い面どちらかに偏らないように支援を行うことができればと考えます。
 就業環境やストレスの形も変わる中、オンラインカウンセリングなどの相談方法の選択肢を増やすことで支援につながりやすくすることや、コンテンツはもちろんですがオンライン研修やE-ラーニング、ビデオなど自身や部下の心身の健康管理を学べる方法を増やすなど、お取引先企業様に寄り添いながら時代に即した支援を行っていきたいと思います。メンタルヘルスセンターのメンバーと力を合わせて結束を固めて、支援を続けていきたいと思います。

他事業所にお勧めしたい3分間スピーチ

―他の事業所にお勧めしたい対策を教えてください。
 弊社で実施した「3分間スピーチ」のように、直接的には関係ないと思われるようなことでも、社内で費用をかけずに簡単にできる取組みを試してみることはお勧めしたいと思います。
 また、在宅勤務下において部下の就業状況が見えず不調に陥らないか心配であると感じられている状況があれば、是非EAPのメンタルヘルスサービス等、外部相談窓口の設置をご検討ください。また、オンラインを利用した管理職や職員全員を対象にしたメンタルヘルス研修をおこなうことで、人とのつながりを感じてもらったり、1次予防2次予防が行える体制作りを目指したりすることも効果的です。

―ありがとうございました。 (2021年4月上旬、聞き手:栗岡住子)

 

interviewfollowup6_1

一覧へ戻る

Copyright © 日本産業ストレス学会 All Rights Reserved.