浅井裕美さんAsai Yumi
保健師
2021年より大手生保にて産業保健業務に従事
オンライン技術を賢く使って在宅勤務による健康課題の解決へ
前回のインタビュー以降、転職を果たし、複数の企業の内側からコロナ禍の社員と会社をみてきた浅井さんに、今回はコロナ禍で生じやすい問題と工夫している実践内容、そして産業保健活動において大切だと感じることについてお話しいただきました。
在宅による問題の顕在化
―現在の働き方はどのような状況でしょうか。会社では緊急事態宣言の出ている間は出勤率最大20%としていますが、今後も出社と在宅を混ぜて50%ずつにする見通しです。
産業保健体制は、本社には統括産業医が1名、保健師が3名在籍しており、各自が週2日ほどの交替出社をしています。
現在見られている状況では、カスタマーサービス部門のストレスが課題となっています。そのため昨夏にオンラインで全員面談を行いました。しかし冬ごろに休職に入られる方もおり、根強いものがありそうです。もともと高ストレス職場でしたが、コロナ禍において当初は在宅勤務にならないことに不公平感があったようです。
また、在宅勤務では、上司と部下のコミュニケーションも課題にあがります。上司とうまくいかないなど、今までの問題が顕在化したのだと思います。他に同居家族の問題や、子どもが生まれたようなおめでたい話でも、在宅勤務をする上では問題になるケースもありました。
教育の生配信やオンライン面談で、遠隔技術を積極的に活用
―産業保健活動として、どのような対応をされていますか。
現在は産業医に面談が集中している状況です。また、外部EAP機関のカウンセラーにも来ていただいています。カウンセリングの枠も増やして頂いている状況なので、ニーズは高まっていると思います。私自身はインテーク面接や面談のつなぎを行なっています。
ストレス対策としては、産業保健スタッフを中心に毎月お昼に教育の生配信をやっています。メンタルヘルスだけではなく糖尿病などの健康関連の話題を取り上げているのですが、チャットで反応がどんどん入ってきて、コアなファンがいる様子です。さらに、お昼に視聴のできない外回りの営業向けに、朝礼でも生配信することを企画しているところです。会社としても健康経営を支援しているため教育を推進する方針があることも背景にあります。
―コロナ禍だからできた、と思う対策はありますか。
遠方の事業所の社員と面談が設定しやすいのはメリットです。当社本社の担当エリアは全国にわたる中、込み入った案件や早めの対応が必要な案件は統括産業医とのやりとりが必要になりますが、その設定もしやすくなりました。
昨夏に実施したカスタマーサービス部門への全員面談も、オンラインで設定したからこそ、短期間で相当数をこなすことができたのだと思います。
上司への丸投げとチャットコミュニケーションだけでは問題の芽を摘めない
―やれなかったことはありますか。
吸い上げきれていないものはあるのだろうと思います。オンラインでは、自分から連絡してもらわないと、こちらからは見えません。気づけていない不調や問題はあるのではないかと思っています。
昨年まで勤務していた別の企業ではコロナ禍で高ストレス者が増えました。しかしオンラインだと面談しやすい分、産業医の予約の枠が埋まってしまい、すぐに対応できませんでした。また、急成長中の会社でしたので、完全オンラインの業務の中、誰にも会えない状況で、毎週新しい社員が増え、不調者も増えていきました。例えば上司に直接会えない中でコミュニケーションがうまくいかず、上司と部下それぞれから相談がくるようなこともありました。上司は、部下の勤怠が突然不安定になったと困り、部下は上司が心配して延々とチャットを送ってくるのに疲弊していました。チャットが飛び交う文化に慣れていない新入社員や中途入社社員は、そう言われないとびっくりしてしまいます。教育もオンラインで、共有できる情報が限られてしまったのだと思います。人事部も同様の状況なので精神的なフォローは上司にまかされ、上司教育もオンデマンドで流すだけでは、やはりフォローが届かなかったのだと思います。
産業保健には相談があがってこないとわからないのですが、もっとできることはなかったのかと思います。高ストレス者で面談希望をしない人にも何かできれば良かったと思います。情報提供だけでも十分にできなかったのが心残りです。集団分析結果は担当人事が各部門に伝えましたが、その結果がどのように活かされたのかまでは把握できず、もう少し関われたらと思いました。担当人事とはチャット上で連携を取るのですが、ちょっと気になっている、といった程度の情報は共有が難しいと感じました。チャットは、問題の顕在化したケースではやりやすいですが、雑談ができず、問題の芽を摘むことが困難でした。
今回のことで、オンラインの良さも対面のありがたみも知ったと思います。オンラインはアクセスのしやすさがメリットですが、復職前の面談などは対面が良いと思います。現職では産業医が出社していらっしゃいますので、対面の場を有効活用しています。
在宅労働による健康障害を防ぐために
―これから課題になりそうだと思うのはどのようなことですか。
テレワーク中はずっと画面の前に座り続けている社員が多く、健康影響は出てくると思います。前職ではスケジューラの予定が途切れることなく会議が入り、朝から十時間、トイレにもいかずミーティングに出席し続けている人もいました。また、残業の実態が掴みづらいことも問題になってくると思います。当社はパソコンのログと申請に30分以上の乖離があるとアラートが鳴る仕組みですが、会社によっては実態をつかめていない、つかもうとしないところもあると思います。働かせすぎないでください、80時間に抑えてくださいと伝えるだけでは健康障害の予防には繋がらないのではないかと感じています。
健康管理からの働きかけとして、遠方の事業所ではオンラインの衛生委員会も活用したいと思っています。そこで呼びかけるのと、イントラを整備すること、健康情報を配信しているメールの内容も工夫しようと考えています。
―今後やりたいことはありますか。
健康教育の充実です。メンタルヘルス教育を積極的に取り入れ、その内容も広げていけたらと思います。直近では在宅勤務におけるメンタルヘルスケアに特化したオンライン研修を検討しています。
また、今後、衛生委員会などの場を活用して職場環境改善を行い、参加型のグループワークによって意見の吸い上げができたら理想的だと考えています。まだ具体的な提案ができているわけではないのですが、来期担当になる事業所の衛生委員会は幸い雰囲気が良いと伺っているので、それを活かしていきたいと期待しています。
オンライン面談の活用を
―他社にもお勧めしたい対策はありますか。オンライン面談はメリットが大きいと思います。先ほどお話ししましたように、夏に不満が多く出た部署に全員面談を行った時、オンラインだからこそ一人一人に丁寧に接することができましたし、想定よりスムーズに調整ができました。そして面談の結果を受けて管理監督者研修に繋げたことは、良い取り組みだったと思います。
―ありがとうございました。 (2021年3月下旬、聞き手:小林由佳)
画像)オンラインでの健康情報配信を行っています