小笠原隆将さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

フォローアップインタビュー

小笠原隆将さん

小笠原隆将さんOgasawara Takayuki

三菱ふそうトラック・バス株式会社
人事本部 HRマネジメントサービス部 
安全衛生 ヘルスケアセンター
産業医

佐々木直子さん

佐々木直子さんSasaki Naoko

三菱ふそうトラック・バス株式会社
人事本部 HRマネジメントサービス部 
安全衛生 ヘルスケアセンター
産業医

社内の連携・関係づくり、慮ることの大切さを実感する機会に

 前回、小笠原さんに感染症予防対策に加え、在宅勤務のできない業務に従事している社員や家族の不安にどう対処されているか等についてお話を伺いました。今回は、その後の活動について、小笠原さんと佐々木さんに詳しくお話を伺いました。小笠原さんは年明けから2か月間育休取得され、その間は佐々木さんがフォローをされたそうです。家庭と仕事の両立についても、秘訣を伺いました。

コロナ対策をきっかけにインフラや方針整備を 社員の不安も低減

―前回インタビュー後、どのような変化がありましたか。
 2021年3月時点では感染者は落ち着いている状況です。現在は、コロナ下での働き方の変化を通して、4月以降の産業保健活動をどう回していくかを検討しながら進めているところです。
 在宅勤務ができるようになったことで、オンラインのインフラやポリシーの整備が急速に進みました。これに応じて健康管理部門のスタッフも月の半分出勤、もう半分は在宅勤務の勤務スタイルを定常的に行うようになりました。在宅勤務の社員が多いことで、感染者が発生したときの影響が最低限になっているメリットを感じています。第2波以降、次第にPCR検査を受検出来る体制になった際には、体調不良時の出社基準や感染者および疑似症例発生時のマニュアルを設けて、地域販売部門において人事、管理職などが現地で対応できるようにしました。
 前回インタビューでお話しました不公平感や不安は、今は落ち着いていると感じます。というのも、当時6月時点では全国の感染者が増える中で当社ではまだ感染者が出ておらず、不安が先に立つ状況でありました。そのため物資補給などできる限りの感染症対策を行いました。その後、7月に1件目が出て、個別の対策が進み、感染発生時のコミュニケーションパッケージも整備しましたので、今は対応の道筋が見えるようになったことが不安の下がった理由の一つかと思います。

現場をよく知る人事との連携により、ニーズに合致した対応パッケージを整備

 社員が感染したとき、保健所とのやり取りや地域コミュニティなどで生じる問題への対応が必要となりました。例えば、子供の通う学校から登校を止められたという知らせが入り、どのように対応するかなどを人事と協議しました。一方、社員からも、濃厚接触者として保健所が実施するPCR検査の対象にはならないが感染の不安があることや今後感染者が出たときどうすればよいかといった声があがり、都度対応していました。こうした状況を踏まえて、人事とヘルスケアとの連携によって感染発生時に発生拠点で情報を周知するコミュニケーションのパッケージをつくりました。これにより、産業保健職の常駐しない分散事業所でも人事が対応を回すことができるようになりました。

 パッケージは、3つのメッセージと関連資料からなります。
 1つ目は発症時に社員の不安に対応する相談窓口を案内する内容です。2つ目は新型コロナ感染症一般の知識を伝える資料と、家庭内で気を付けられること、消毒の方法などの資料です。感染後に生じやすい不安の内容に対して必要な知識をもってもらえるようにしました。3つ目は感染した人が安心して職場に戻れるよう、配慮事項や基礎知識(発熱後10日間経った人から感染することはないこと、モノから人に感染するリスクはどれ位か、など)をまとめ、感染者と感染者を受け入れる同僚に向けて作成した資料です。当初、「発症者が復職するのは怖い」、といった雰囲気もありましたので、三つ目の資料は人事から強い要望を受けて作成したものですが、作って良かったと思います。

 このパッケージはうまく機能しています。このように現場のニーズにマッチした対応が取れたのは、現場の状況をよくわかっている人事と専門職である我々との領域間の連携がうまく進んだことが肝だったと思います。

オンラインできめ細かなサポートが可能に

―社員の健康上の課題はありますか。
 本社工場の間接部門は全面的に在宅勤務になり、数か月出社していない社員もいます。10㎏近く体重が増量している社員や朝から夕方までトイレにもいかず立て続けに会議に出席している社員もいて、動く機会の少ない在宅勤務をしながらどう健康を保つのかは課題です。
 そのため、健康診断の事後措置の面談では、できるだけ在宅中の健康管理のコツをお伝えしたり、在宅中の過ごし方を聞き出したりすることを心掛けて対応してきました。ただ、オンライン面談となったことで出席率が上がったのは嬉しい誤算でした。運動ひとつとっても、室内で運動の疑似体験を出来る機器を使って体を動かしているお話など、それぞれ工夫されている様子も伺っています。

 復職支援も在宅勤務ならではの支援ができています。在宅でより段階的な支援が可能となったことで、長期の休職者が復職できたケースが何例かありました。復職当初、在宅勤務から開始することで出勤の負担感が抑えられたり、遠方から家族の支援を得て勤務したりするケースもありました。こうした細やかな対応が出来るのでメリットが大きいと感じます。

 コミュニケーションはオンラインでも意外と問題なくとれていますが、人によっては出勤したい人もいて、やりやすさの感覚は分かれるところです。対面でのコミュニケーションもある程度、必要なことを感じています。
 特に新しく業務に従事するなどの社員にとっては情報を対面で気軽に聞けないことが不調のきっかけになることがあります。オンラインの便利さを実感できるようになるまでは、しっかり情報を伝えておく必要があると思います。

 

職場の仲間と家族とでお互いのワークライフバランスを支えあう

―小笠原さんが育休をとられている間、どのような工夫をされましたか。

佐々木さん) 期間が分かっていましたので、割り切りながら、延ばせるものは先にして対応しました。しかし育休を取られた時が、ちょうどコロナ感染症対応のピークと重なったので大変ではありました。非常勤の医師のサポートを得ながら何とか乗り切った状況です。子どもの送り迎えは夫が行うなど、家族のサポートも得ました。私も以前に育休を取った際、小笠原さん始めヘルスケアのスタッフの方たちにサポートして頂いたので、その恩返しのつもりです。

小笠原さん) 一人目のとき2か月、今回も2か月育休をとらせて頂き、毎回思ったことですが、育休期間は子どもたちとの関係性の形成に非常に重要でした。また、妻と家事などの業務分担を考えることもできました。時間がないとなかなか落ち着いて考えることができないことかと思います。家の中でより良い関係であることが、結局、勤務にもいい影響を及ぼすことをまさに実感しました。

日ごろからの関係づくり、相手を慮ること・・ 今回のことは大きな学びに

―読者へのメッセージをお願いします。

小笠原さん)
限られた医療スタッフのリソースを活かすには、社内の連携、つまり地方の人事、社員、管理職との連携をしながら業務をするのが必須だと思います。今回、マニュアルを作る第一段階として、どういう声が現場であがっているのかを聞けることが重要で、そのように聞けるためには、日ごろから関係づくりをしておかないと、そもそも声もあがってこないわけですから、関係づくりが非常に重要だったと今回のことを通じて感じました。
そして育休を取らせて頂いて感じるのは、仕事一辺倒でも自分事の一辺倒でもいけなくて、お互い限られたリソースでやっていることを思いやることが必要で、その中で業務をシェアしながらやっていくことが、うまく回していくことの秘訣だと思います。つまり「相手を慮る」ことが大事だと思います。これが社員の幸せにつながるのだと思います。単に健康になるだけではいけないなと、産業医の勤務年数が長くなってより感じるようになりましたし、自分の家庭を見ても改めてそう思いました。

佐々木さん)
今回のコロナ禍で色々なことがドラマティックに変わりました。在宅勤務など、新たな経験からの学びを深める期間になっていると思います。私たち専門職だからこそ、早くにキャッチできる社員の変化を人事と連携したりして、新たな社内のネットワーク構築や、対策につなげるきっかけづくりにしていければいいと思います。
年明けの感染再拡大の時期に一番大変だったのは保健所業務だと思います。どんどん感染社員が出るのに電話が全然つながらないようなときもありました。その時にこちらが混乱してしまうと社員も混乱します。社員には保健所から指示されるであろう内容を伝え、消毒の必要性などを社内で判断し、必要以上に行政に負荷をかけないようにと思って対応してきました。幸い、社内は混乱せず、職場もよく協力してくれて、なんとかやりきることができました。これも、日ごろの関係性の構築ができていたからこそ、お互い声を掛け合って、エネルギーを集中させることができたのだと思います。先ほどの話に出ましたように、今回のコロナ対応は、お互いを慮りながら、自分はどう動けばいいかを考え、全体を見て動いたという、またとない経験だったと思っています。
―ありがとうございました。 (2021年3月下旬、聞き手:小林由佳)

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