匿名 - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

コロナ禍の産業保健活動の実際と展開のヒント

宗像 かほりさん

匿名

金融系A社、保健師

「関わり」を大事にする支援

在宅勤務下での新たな働き方への支援

―企業の概要を教えて下さい。
 保険の会社で、社員は約1500人ほどです。事業所は、本社に加えて、全国に8拠点あります。。また、コールセンターがあるため、女性の割合が比較的多い会社です。産業医、衛生管理者とともに、相談対応やメンタルヘルス支援、巡回など行い、産業保健全般に携わっています。

ーコロナ禍での社員の状況やそれをとりまく状況などいかがでしょうか。
 コロナ禍になって以降在宅勤務なども多くなっています。2020年度コロナ禍になってすぐは、そうはいっても、新たな環境に慣れていくという状況で、メンタル不調で体調を崩す社員や、相談件数はそれほど増えていませんでした。一方、2021年度になってくると、長引くコロナ過で、「まだ続くのか」という思いや、疲弊感が社員にも出てきたように思います。

 また、在宅勤務で働いている社員からは、オンラインで、直接、様子が確認できないことなどから、職場でのコミュニケーション、特に上司とのコミュニケーションが取りにくかったり、同僚とのコミュニケーションが取りにくいなどのれないとの声がきかれるようになりました。特に、勤続年数の浅い社員には、在宅勤務になり、近くに上司がいないと、困ってもつい自分で何とか解決しようと抱えてしまうことがおこりやすいことを心配しています。在宅勤務下では、特に、上司も気にかけて、積極的に部下に声をかけていますが、勤続年数が短いと、上司部下の関係を、在宅勤務下のの中で、短時間で築くのが難しいケースもあるように思っています。

コロナ禍、在宅勤務下での健康課題(コミュニケーションと生活習慣)

―社員の状況や働き方が変わる中で、産業保健の支援も変わっていきましたか?
 コロナ禍までは、社員の中でも、いわゆる“飲みにケーション”のような場を利用して話しをすることも、コミュニケーションのひとつの手段でした。もともと、社員同士のコミュニケーションはとても密で、クリスマス、忘年会、新年会、歓迎会などで、様々な機会でコミュニケーションをとることを常とするような社風がありました。

 ただ、ここ2年間はコロナ禍での自粛ということもあり、イベントはもとより、ランチを一緒にいくことも控えるようになり、上司部下だけでなく、同僚同志でのコミュニケーションの機会も減ってきてしまっていることは、社員の健康やメンタルヘルスへの影響も含めて、課題になってきているのではと感じています。

 コロナ禍になって以降、健診結果でも、肥満者・脂質が高くなる傾向がみられることについても気にかけています。もちろん、経年で、社員の平均年齢は少しずつ上がっていきますが、それでけでなく、在宅勤務の増加により、通勤がなくなり運動量が減ったことなどが関係してきているのではないかと感じています。これから、生活習慣、運動などの支援にも力を入れていきたいと思っています。特に、若手よりも、40歳代より上の年代に、このような傾向が多く見られるように感じています。とはいえ、意識の高い社員は、在宅勤務下でも、逆に運動など取り入れ、脂質などの数値が改善している人もいます。うまくいっている人の例なども伺いながら、個々人に応じた支援がしていければと思っています。また、生活習慣という意味では、在宅勤務、自粛生活などが続くと、以前のように、食事会や大勢の人が集まる場などで話すことなどストレスを発散していた人にとっては、そのような場がなく、家で食べ過ぎてしまう、また、禁煙成功者が喫煙を再開してしまったり、ということもあるなど、働き方の変化にともなって、生活習慣にも変化が出てきている人もみられていることも気にかけています。この辺りも、一人一人に寄り添い、関わっていきながら支援を続けていきたいと思います。

コロナ禍、在宅勤務下でのよい影響

 また、コロナ禍、在宅勤務下など働き方が変化したことで、逆にいい影響があったという声も聴いています。例えば、これまで残業が多かった方が、在宅勤務になることで、かえって、ON/OFFつけやすくなった、という声もありました。夕方になると、「御飯が出来たよ」と声が家族からかかることで、そこまでに区切りをつけよう、仕事を終わらせよう、など、、ON/OFFの区切りをつけるきっかけになったりしている社員もいるようです。また、在宅で勤務をしていると、リビングから、家族や子どもたちがワイワイ楽しんでいる声が聞こえてきたりすると、今まで自分の知らなかった世界を知ったようで、はっとさせられたという声もありました。このようなことで、自分の考え方や、価値観も変わり、「家族との時間を作るようにしよう」と思うきっかけになり、ON/OFFの区別をつけるようになった、という声もありました。

 その他にも、今まで、通勤していた時には、時間を作れなかったが、在宅勤務になり、ある程度、仕事の仕方も自分でコントロールしやすくなり、在宅勤務だからこそ、ジムに行ったり、運動したりする時間を作れるようになったり、また、自宅で筋トレができるなどのメリットがあるなどと話している社員もいました。在宅勤務などの働き方も、個々人の考え方次第で、よい方向に生活習慣を変えていけるきっかけにもなると、社員からの声を通じて感じています。社員にとって、よい変化などの「行動」につながる支援が行えるよう、日々こころかげています。

―労働者のストレスを下げるために、これまで工夫や配慮をしたことや、試行錯誤を続けていることなどはありますか?
 在宅勤務などでは、Teamsなどのオンラインツールを使って面談をしています。やはり、「顔が見える」また、カメラオフの場合でも、「声を聞く」だけでも、社員への理解も違ってくると感じていますので、相談対応の際は、メールよりも、声や顔の見えるツールを活用するようにしています。

 コロナ禍になる前までは、相談対応の際には、対面で、「顔を見て」の面談を行っていました。当社の支援スタイルとしては、本社にいる社員でなくても、保健師が実際に拠点へ出向いて、「顔を見て」、直接「聴いて」、話をする、という形をとっていました。直接、顔を見て話を聞くことで、言葉だけでなく、表情などノンバーバルな面からも情報を得ながら面談・フォローを行っていました。

 特に、勤続年数の短い社員への支援については、会社としても、新入社員向けの研修や各種施策、支援などを実施していますが、これとは別に、入社後、入社2-3か月のタイミングで、保健師面談し、困りごとがあれば上司にフィードバックをしたり、必要に応じて、産業医につなぎ、人事と連携をしたり、就業制限などを行ったりしています。コロナ禍になる前までは、直接、保健師が出向いて面談をすることが出来ていましたが、コロナ禍になり、出張制限などで、直接、出向くことはかなわなくなりましたが、それでも、オンラインツールなどの手段を活用して、フォローを行うようにしています。早めに顔をつないでおくことで、入社間もない社員が悩んだ際にも、「ここに連絡すれば保健師がいる」と思ってもらえる体制を作っておけるよう、こころがけています。

 オンライン面談は、対面面談と比べて、得られる情報量が減るデメリットがあるものの、メリットもあると感じています。例えば、オンライン面談のいいところとしては、出社の際と違い、在宅勤務なので、面談時間のための業務調整もしやすく、面談のキャンセル率がとても低くなったと感じています。また、面談の際に、在宅勤務などで、上司が近くにいないこともあり、会社での相談では少し言いにくかったことや、職場でのこまりごとなどが、本音が出てくることもあるように感じています。オンライン面談の際にも、このようなメリットを活かして実施していきたいと思っています。

 その他にも、研修についても、在宅勤務になったことで、どこでも受けられるようになったのは大きなメリットと感じています。このようなメリットを活かせればと、ストレスチェック実施後に、セルフケア・イーラーニング研修が受けられるように整えることもしました。また、ラインケア研修についても、これまでは、時間や場所も決めて集まってもらい、産業医が実施していましたが、在宅勤務下になったことで、研修もオンライン化したため、距離が離れている社員にも気軽に声をかけられるようになり、これまでよりも多くの人に実施いただけるようになりました。

 生活習慣など、行動変容を起こしてほしい人に、いろいろアドバイスをしても矯正するのはなかなか難しいです。ただ、本人に「変わろう」という意識があり、価値観や考え方が変わると行動変容につながります。そのため、こちらからは「繰り返し」伝え、かつ「しつこく」思われないよう、バランスをとりながら個に関わっています。地道に個々にリスクなどを丁寧に説明して関わっています。

「顔が見える支援」の大切さ、安心できる場の提供

―コロナ禍での活動を通して、良い産業保健活動をするために大切にしていることや想いがありましたら教えてください。
 相談対応の際には、可能な限り「対面」で面談を行うこと、今でもこころかげています。新入社員へは、入社後全員と面談をしていますが、これには、自分も「社員を理解をしておきたい」という思いがあります。そして、社員にも、入社間もない中で悩んだ際も、「ここに連絡すれば保健師がいる」と思ってもらえる体制を作っておけるよう支援していく、ということを、大事にしています。

 実際に、社員からの相談対応で保健師につながるケースについても、上司からの相談よりもむしろ、同僚から、「気になる同僚がいる」とのことで声かけがあり、相談につながるケースもあります。どんな話や相談であっても、本人と「顔を合わせて話す」ことを大事にしています。コロナ禍でも、なるべく対面で、難しくても、オンラインで合うようにし、接点を多くして、本人の特徴を把握しながら、それぞれの「個」にあった支援を行っていきたいと思っています。「個」への支援から、「個」と「個」での横連携を通して、全体の場の支援につながるようになっていくことを実践していきたいと思っています。そして、保健師としての指導はもちろんのこと、それでけでなく、「相談の場」を通じて、社員が、安心感やリフレッシュを感じて、職場に戻って仕事してもらえるようなところでありたいと思っています。

(2022年4月上旬:聴き手:島津 美由紀)

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