荻原 秀和さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

コロナ禍の産業保健活動の実際と展開のヒント

宗像 かほりさん

荻原 秀和さん Ogihara Hidekazu

株式会社東急コミュニティー 
人事部安全衛生管理センター長

「自立」「自律」をメインテーマに、新しい働き方に合わせて社員の健康を支援する

テレワークは不動産管理業務のストレス増加にも影響?

―企業の概要とコロナ禍での状況について教えてください。
 弊社は不動産管理業で、単体では1万人強の従業員がいます。体制としては、本社には嘱託産業医が2名+フルタイムの保健師が1名おり、労務担当者や地方の事業所の産業医と連携を取りながら産業保健活動を行っています。

他の会社でも同様かと思いますが、新型コロナウイルスの流行が始まった初期には、しっかりした仕組みがないままテレワークが急拡大しました。その結果、最初は勝手がわからずダラダラ残業やマネジメントが不十分になる状況が生まれていました。ただ最近になって、テレワーク下でマネジメントを行う上のラインケア研修を実施したり、サポートツールを整えることで、ようやく昨年よりは落ち着いてきた印象を持っています。

テレワークは、新型コロナウイルス対応により、回数制限を一時的に撤廃し、全社では在宅比率7割を目安にしています。ただ、事業部により温度感は違い、逆に7割程度が出社する事業場もあります。また現場で働く管理員や、物件常駐の技術員など、テレワークができない職種もあり、不公平感が助長されないよう注意をしています。

新型コロナウイルスに関する働き方の変化としては、テレワークが普及したことでの、横の連携が減少したことです。管理という目に見えぬ商品を扱う上で、以前は、何か対応が必要となった場合に、周囲の社員とコミュニケーションを取ることで、対応策を即座に検討することが可能でしたが、テレワーク時には周囲の社員の様子が見えづらく、相談が出来ずに一人で抱え込むケースも発生し、それをきっかけとして、メンタル不調へと繋がっているケースも発生しています。

働き方の変化に合わせて従業員のスキルアップをサポート

ーコロナ禍の産業保健活動で特に大事にされていることはありますか?
 ここ数年はラインケア研修を重視し、全管理職(500〜600人)向けに毎年行っています。以前はパワハラ防止や、メンタル不調者発生時の対応についての研修などが中心でしたが、最近は予防という観点から、ラインケアの知識やスキルのアップ、テレワークをしている部下のマネジメントなどを中心に行っています。また、部下側のストレス対処スキルも大切なので、あわせてセルフケア研修も実施しています。具体的な研修内容としては、テレワークで仕事とプライベートの境界が曖昧になる人が多いため、上手くタイムマネジメントするための手法などスキル的な部分を学んでもらったり、マインドフルネスなどのストレスケアを知ってもらうようにしています。

ーほかにも工夫をされていることはありますか?
 毎月従業員向けに「安全衛生だより」を作成しています。たとえば先日は、テレワークや運動不足で腰痛に悩む人が増えている現状を踏まえて「腰痛予防」をテーマにしました。従業員にはネットが十分に利用できない高齢の管理員さんも多いので、配信だけでなく定例の会で取り上げてもらい、周知展開を図っています。
またテレワークの導入をスムーズにするため、Zoomやteamsの使い方を勉強してもらったり、ノートパソコンも数百台単位で整えるなど、会社としてサポートを実施しています。今年度からは、新入社員への研修の中で、テレワークの体験や活用のための研修もはじめました。
さらにテレワークの問題点として労働時間管理が曖昧になりやすいため、勤怠システムを整えてパソコンのログを記録するようにしています。定期的に本人の自己申告とログ記録の間に齟齬がないか確認しています。

ーたとえばストレスチェック結果には変化がありますか?
 意外なことに、ストレスチェックの結果はコロナ流行下でも全体的に良い状況でした。集団分析で細かい結果も確認してみたところ、「仕事の負担は大変だが、周囲のサポートがしっかりできている」という傾向が出ています。ただテレワークが一般的になったことで、以前に比べるとサポートが十分できていない部分もあると考え、様々な対応を行っています。


従業員の「自立」「自律」がメインテーマ

ー現在試行錯誤している取り組みについて教えて下さい
 最初にお話ししたように、世の中の状況変化とそれに合わせた働き方の変革に伴い、従業員のストレスも増加しています。ただ、こういった状況は今後も継続することが想定されるため、「ストレスコーピングとレジリエンス」をテーマに、ストレス耐性向上を図る研修を実施する予定としています。
テレワークや三密防止により一人で働く時間が増える以上、従業員自身が適切なストレス対処を身につけることがより重要になります。また労働時間管理なども、オフィス勤務のように全て会社側で就労状況を確認することはできません。テレワークは場所に捉われず事務所と同様の仕事が出来ることを目指すべきですが、会社の監視がない中、楽に仕事が出来ると誤った認識とならないように、注意をしています。他方で、相談が出来ず一人で抱え込むケースも発生しているため、今後の産業保健活動としては、従業員一人ひとりが周囲にアサーティブに働きかけながらも、「自立」「自律」して働いてもらうことをメインテーマに据えています。

―自立・自律を促す一方、サポート体制について気をつけていることはありますか?
 今までのように密にコミュニケーションを取るのが難しくなっている状況で、様々な理由で調子を崩している人の声が届かず放置されてしまう状況になったり、その結果として会社に不信感を持ってしまうようなケースを防ぐことが大切だと考えています。以前は業務遂行にあたりストレスを感じることがあっても、同僚と愚痴などを言い合いつつ、気持ちを整えてから家に帰ることができていました。いまはそういった機会が減少し、在宅勤務等で家にストレスを持ち込んでしまうのが問題だと感じています。少しでも気付きが出来るようリモートマネジメントや1on1といった要素を研修に追加したり、仕事からしっかり離れる時間を確保することを目標とした取り組みを進めています。なおメンタル不調者の復職については、医療者によるオンライン面談が一般的になったことで、地方への展開も含め以前よりも対応がスムーズになるといったメリットも感じています。

 

食習慣など生活改善に向けた取り組みも大切

ー他社にもおすすめできる取り組みはありますか?
 当社は泊まり勤務など不規則な就労が多く、もともと食習慣の問題や生活習慣病の比率が多い傾向がありました。そのため、グループである東急スポーツオアシスの健康アプリを使い、食習慣や運動に関する改善プログラムを従業員向けに展開しています。また、当センターの従業員と外部の保健師で連携し、従業員への健康動画を作成、社内へ展開しています。現在までに、食事編(コンビニエンスストアでの食事の選び方)・運動編(自席で出来るストレッチ)・健診結果の見方と活用の仕方と3段まで作成しました。馴染みやすい部分からの知識の付与だけでなく、従業員を巻き込み動画へ参加させることで、コミュニケーションのきっかけにもなりますのでおすすめです。一方で、明らかに医療対応が必要な従業員には保健師対応を通じて早め医療機関につなげるなど、従業員の状況や健診結果により個別に対応しています。

ー今後実施したい取り組みはありますか?
 当社では様々な課題が生じる中で、教育研修や情報の展開、電話相談窓口の設置や、不調者に対しての復職プログラム等施策を実施しております。ただし、それらの情報が網羅されている場所がなく、従業員が都度情報を探しに行くという状態も生じています。今後は、様々な情報や施策が一か所に集まっており、従業員が必要とした際に簡便にアクセス出来る形を目指し、またそこを介してインタラクティブなやりとりが出来る仮想保健室のようなものを立ち上げられればと考えています。

(2021年11月下旬、聞き手:石澤哲郎)

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