千葉県警察本部 新型コロナウイルス 感染症防止対策 プロジェクトチーム - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

インタビュー

千葉県警察本部 新型コロナウイルス 感染症防止対策 プロジェクトチーム

千葉県警察本部 新型コロナウイルス感染症防止対策プロジェクトチーム

お答え頂いたのは佐久間 涼さん
保健師

多職種チームで非常事態へのサポート体制を整備

職員の働き方に合わせた感染予防、家族も一緒に

―今回のコロナ感染症感染拡大を受けて、職場ではどのような働き方の変化がありましたか。
  千葉県警察では、安全で安心できる県民生活の確保のための公務を行なっています。現場で活動する職員は、常に感染リスクを念頭において業務を遂行しなければならなくなりました。また、様々な警察業務について、3つの密に配慮した環境に変わりました。職員の感染により、警察活動を介して県民に感染が広がることの無いよう、また部内での感染拡大のために必要な警察活動が行えなくなることの無いよう特に気をつけています。

 感染拡大の局面では、通常とは異なる方法での指揮命令、情報伝達をすることが増え、時差勤務や在宅勤務等の余り経験のない働き方、集合研修の中止や延期など、変化への対応が多く生じました。新型コロナウイルス感染症では、家族間での感染も多いとされることから、職員には、ご家族の体調の変化についても迅速に職場に報告してもらい、自宅で健康観察を行わせるなど、感染拡大防止に万全を期しました。

―この状況で、どのような精神面への影響を危惧されましたか。
 現場で活動する職員は、感染リスクに関する情報が十分に無い中で業務を遂行する不安や緊張で日々の疲労を増加させています。さらに、業務に対するモチベーションの低下も懸念されました。

 また、通常、指揮命令系統が確立している警察組織において、時差勤務や在宅勤務、サテライトオフィス等の執務は、経験がない職員が多く、適応するための負担も小さくはないだろうと思います。特に新人警察職員や異動したばかりの職員に対する指導や支援が不足するのではないか心配しました。

 そして、ご家族への負担も懸念しました。警察の活動は、日頃から職員のご家族のバックアップにより成り立っている面が非常に多くあります。今回も、ご家族に対し、職員への感染予防に関してご協力をお願いしました。一方で、職員自身も職務上感染リスクがあるため、ご家族への感染予防を徹底するなど双方に気を遣われたことと思います。

 職員個人の健康状態においても、生活リズムの変調などによる影響が危惧されます。健康診断実施時期も遅らせていますので、体調変化や疾病発見が遅れる可能性もありました。

多職種によるコロナ対策チームを結成

―どのような対策をされましたか。
 令和2年4月13日に「新型コロナウイルス感染症防止対策プロジェクトチーム」(以下プロジェクトチーム)が千葉県警内に設置されました。「新型コロナウイルス感染防止統括官」以下、警察官、警察事務職員、保健師の計13人で構成されています。

 新型コロナウイルス感染症が国外で発生した頃から、千葉県警として職員の感染防止を図るため、職場や警察活動における諸対策を講じていましたが、国内での発生が認められると共に突発的に増加する新型コロナウイルスに関連した業務を一元的に管理し、専門性をもって迅速かつ的確に対処する必要が高まったことを受けて発足しました。

 プロジェクトチームの主な任務は、以下になります。
○ 企画に関すること(個人防護具の調達や調整、啓発活動、など)
○ 健康管理に関すること(職員や職員家族の体調不良者の早期把握・体調不良者の受診等の相談など)
○ 事案対応に関すること(現場活動で職員の感染リスクが高い事案の把握、自宅待機職員範囲の特定、本部応援派遣の調整など)

 施策の決定プロセスにおいては、保健師が、産業医とメールや電話による連携を図り、産業医の助言をチームで共有することで、組織全体の方針を決定していくうえでの疑問や不安の軽減を図りました。

適切な情報提供、部を超えた連携、相談対応をそれぞれの持ち場で

 職員のストレスを減らすためにチームとして力を入れていることは、情報提供、物資の支給、相談対応体制および柔軟な勤務体制の整備です。

 職員が必要な知識と正確かつ最新の情報を得るよう、新型コロナウイルス感染防止統括官が直接、各部署の長に情報提供や感染予防対策の周知を行いました。合わせて、職員向けには、従来の仕組みを用いて新型コロナウイルス対策の良好事例の水平展開や、産業医等専門家の助言を踏まえて作成した具体的で実行可能な情報を掲載した職員向けのたよりの発出を行いました。トップダウンとボトムアップを組み合わせた情報発信としました。

 個人防護具の調達や支給も重要な取り組みでした。医療機関が優先される状況において、外部から購入出来ない時は、組織内の部を超えて調整しました。また、感染リスクのある業務にあたる職員を限定するなど、現場と相談しながら個人防護具の効果的な確保に組織一丸となって努めました。

 さらに、プロジェクトチームスタッフが24時間各部署からの相談や報告に対応する体制を整えました。感染のリスクが高い職員やご家族について早期に把握することができ、予防対策について十分検討し実施することができました。また、対応に当たるスタッフは、方面別の担当制を敷いたため、病状が長引く職員やその上司にとって、同じスタッフが継続して対応することは安心感に繋がったと思います。プロジェクトチームと平行して立ち上がった消毒指導・支援班(クリーニングアシストチーム)では、感染が拡大する前に集中して指導、支援をし、現場で活動する職員の消毒や防疫に対する不安の軽減、消毒スキルの向上に努めました。緊急事態宣言以降は、職場の消毒は各部署で実践しています。

 勤務体制を柔軟にすることも重要な対策でした。職員本人またはご家族の体調不良等、少しでも新型コロナウイルス感染症のリスクを感じる場合は、十分に回復するまでの療養期間の確保、リモートワークによる自宅での健康観察を可能としました。子育て中の職員には、保育園の休園や学校の休校の際は安心して柔軟な対応をとることができるよう勤務体制を整えました。感染予防措置として自宅での経過観察となった職員が増えた警察署には、本部庁舎職員や機動隊から応援をその都度派遣し、署の機能を保持するとともに、署員の士気が低下することを防ぐように努めました。新型コロナウイルス感染症に関する不安等精神的支援を要する職員や家族に対し、保健師や臨床心理士による電話相談や面談を継続して提供し、安心して勤務や療養ができるように努めました。

多職種のチームで力を発揮

―対策を進める上で、どのような気づきがありましたか。

 新型コロナウイルス感染症については、不明な点が多く、感染予防対策も適切な範囲や時期が明らかになっていなかったことで苦労しました。さらに、現場で活動する職員は、その場での感染のリスクがどのような状況であるか、判断が困難な中での活動ですので、感染予防対策と業務遂行のバランスを考える点は難しいと感じました。

 しかし、個人ではなくプロジェクトチームとして様々な事案や課題について検討を重ねながら進めたことで、より幅広く効果的な活動となりました。多職種で構成されたチームであり、1つの職種でも様々な立場や経験を積んだ職員が集まっていますので、多くの視点で問題解決をしていくことができました。

 今回プロジェクトチームを結成したことで多くの知識や経験を得ることができました。これらを組織全体で共有し、今後の感染症対策に活かしていきたいと考えております。

―ありがとうございました。
(2020年5月中旬、聞き手:小林由佳)

 

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