田中三加さん - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

フォローアップインタビュー

田中三加さん

田中三加さんTanaka Mika

製造業 看護職

職場との関係づくりとツールで支援の効果を高める

 前回は、オンライン復職支援の質を高めるために、上司・本人それぞれへの関わり方や、多領域チームでのアプローチ、ツールの整備など、多方面からの取り組みを語ってくださった田中さんに、今回は、その後の状況やコロナ禍で不調に気づくための方策、そして復職支援強化のために整備されたツールについて伺いました。

 

管理職、業務負担の増えた中堅、環境変化に適応しにくいベテラン層に負担が

 現在、弊社社員は原則が在宅勤務です。在宅勤務による身体的な健康面では、運動量の減少や食生活の乱れによる体重増加などが挙げられます。精神的な健康面では、仕事とプライベートのメリハリがつかないといった懸念がありました。しかし、昨年度のストレスチェックでのストレス反応は改善傾向でした。在宅勤務によって、通勤ストレスや職場の人間関係によるストレスの減ったことが要因かもしれません。一方で、管理職にとっては従来のやり方が通用せず、これまで明確に指示をしなくても雰囲気で部下が汲み取ってくれていたものがうまくいかず、マネジメントスキルのレベルが顕在化している状況に見受けられます。
 そして今年度は、メンタルヘルス不調者の傾向が例年と異なりました。再発者が減り、新規の不調者が増えました。新規不調者の特徴は大きく2パターンです。
 一つ目は、スキル格差による業務の偏りが生じていて、業務負担の大きな人が燃え尽きるパターンです。業務に偏りのあるチームはギスギスしてしまい、一体感が感じられず、仕事を割り当てられる中堅層への負担が大きいようです。
 二つ目は、組織変更によりこれまでと仕事の進め方が変わったパターンです。在籍年数は長くても、自分の専門領域外の知識がない、あるいは相談できる人脈がない、といった方々であり、40代後半の方に多い印象です。以前はあまり見られなくなっていた量的負荷やコントロール不足、サポート不足による不調が一部の層で増えている状況です。
 新入社員や中途採用社員も在宅勤務を余儀なくされていますが、先輩がついてオンライン上で丁寧に業務を教えていることと、過度な負担を与えないようにしていることで、今のところは問題なく過ごしているようです。

 

コミュニケーションが不得手な上司をどうサポートするか

―ストレス対策としてどのようなことをされてきましたか。 在宅勤務時の健康アドバイスを行いました。食事・運動・ 気分転換・睡眠・お酒・休息などをテーマに資料を作成して定期的に発行しました。また、ストレスチェックの高ストレス者にはセルフケア情報を発信しました。管理職向けには、ラインケア教育で在宅勤務中のコミュニケーションの工夫についてお伝えし、上司向けメンタルヘルスガイドラインも発行しました。
 対策の中でも、上司への関わりは重視しています。上司と部下の関わりが希薄になっているところでは、関係性をどう強化するかは悩ましく、従来よりもきめ細やかなマネジメントが必要になっていると感じます。周囲が不調者に気づけないケースも多く、業務のしわ寄せ、高負荷、不平等感、チームの総合力の低下なども生じています。このように職場の機能が低下している中での舵取りは難しいところです。
 部下の異変に気づくのが苦手な上司が、ポイントを解説されただけで気づくようになることは難しいと思います。技術力に長けているけれど対人面は苦手という上司には、対人面が得意な人をサポートにつけることなどを検討しています。60歳を超えた管理職は、人脈や対人スキルに長けた方が多いので、そのような人材をキーパーソンとして有効活用したり、所属長でなくても対人スキルが高い人を選出してサポートにつけたり、管理職の部門間の横連携を促して複数人で気づけるような仕組みを構築したいと考えています。
 ストレスチェックの集団分析結果の活用も、人事部門と連携し、部課長層に強く働きかけるようにしています。トップが認識を持たないと職場は良くなりません。特に今年度新規休職者の出た職場とは丁寧に認識を合わせ、対策を検討したいと考えています。

 

職場との関係づくりを見直す機会に

―できたこと、できなかったことはどのようなことでしょうか。
 昨年度までの活動で、職場と健康管理センターとのネットワークはできていたように思います。次は望ましい風土づくりのためのガイドラインを出し、よい風土を定着させようと考えていました。
 しかし今年度に入り、働き方や職場との連携の仕方が大きく変わってしまったことで、関係づくりからもう一度検討しなおす必要が生じました。また、意外な職場で新規休職者が出てくるなど、職場のアセスメントをし直す必要も出てきました。これまで、なんとなくみんなの目で調子が悪そうな人をキャッチできていた職場でも、上司部下間のオンライン面談となると気づけない、ということがあります。「上司に対して質の高いマネジメントを」、と言っても苦手な人もいるわけですので、そのような職場では複数で見守ることのできる体制を組んでいく必要性など、職場をもう一度見直す機会にはなったと思います。

 

オンラインで共有できるツールの整備で復職支援の質を向上

 今年度は、復職支援の方法を強化することができました。4つの工夫(ツール)を紹介します。 一つ目は、復帰後の「上司のモニタリングシート」です。再発者には特に内省強化やリワークを進めていますが、上司に対しても、復帰後に「上司のモニタリングシート」を用いて、突発休や顔色など具体的なポイントをチェックして頂きました。ポイントは産業保健職がケースごとに作成します。これにより、上司の気づきが増え意識が高まり、質の高い情報が集まるようになりました。
 二つ目は、復帰後に本人が記入する「セルフモニタリングシート」です。これは復帰後の心と体の症状をチェックするもので、備考欄にはイベントを記録します。注意するレベルであるとチェックが赤くなるため、視覚的にわかりやすいように工夫しました。赤が増えたら本人から健康管理センターへ相談に来るなどの主体的な行動がとれるようになりました。面談では、このチェックシートを見ながら話せるので、認識のずれを防ぐこともできます。どちらもオンラインでチェック、共有できるのでとても便利です。
 三つ目は、「上司のヒアリングシート」です。試し出社中、上司が復職後の業務プラン作成の際、これまでの経過を上司に要約して頂くときに使います。部下の不調の要因は何だったのか、上司として何ができるか、配慮としてどのようなことが必要か、といったことを記載することにより、上司自身が理解していないところや懸念事項がわかり、ポイントが具体的になることのコミュニケーションもとりやすくなります。上司の言葉で表現して頂くことが大事ですし、文字に起こすことで、曖昧な部分が整理される効果もあります。
 四つ目は、「復職ロードマップ」です。不調に至るまでの経過、再発か否か、現在の状況(療養専念期、安定期、準備期)、介入の観点などを整理し、ステップに応じた目標とサポートを行うことが可能になります。関わり方が難しいケースでは、チームでの検討を行います。その結果、データが蓄積され、より良いアセスメントにつながります。今後、ケースごとに整理して、上司の良い関わり方や、休職中に回復が止まってしまう要因などについても分析できるのではないかと考えています。
 最後に、休職期間中に休職者本人が定期的に提出する「経過報告書」をペーパーレスにしました。当社では休職期間中の社員の義務として、復職に向けた意思があること、復職に向けた努力をしていること、疾病の回復の可能性がることを要件としています。この要件を満たすため、経過報告書で現在の状況、復帰に向けた段階(5段階で設定)、復帰に向けて行っていることを「経過報告書」に記載することになっています。今回、この書類をペーパーレスにし、メールで一括送信することにより、上司・人事・健康管理センター間で回覧する工程をなくしました。

 

オンラインを味方に

―読者へのメッセージをお願いします。
 当社でも、書類のペーパーレス化、情報共有のオンライン化への移行を進めています。とても便利です。

―ありがとうございました。 (2021年3月下旬、聞き手:小林由佳)

 

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