匿名 - 日本産業ストレス学会-産業ストレス/メンタルヘルス情報発信

フォローアップインタビュー

匿名

匿名

製造業 人事担当者

オンラインのアクセスの良さを武器に、より課題解決力の高い人事へ

 2020年コロナ感染拡大の初期より、フルリモート勤務を導入し、定期的なパルスサーベイなど人事主導の対応を進めてこられた企業の人事担当者に、その後の状況と取り組み、対応を通して気づいたことを語って頂きました。
 

入社歴の浅い方などには個別サポートを
全体にはコンディションサーベイで早期発見と対応を展開

―現在の働き方や社員の状況はいかがでしょうか。
 当社では、2020年3月より原則フルリモート勤務となっており、週1日を超える出社は担当役員の承認が必要です。社員には、在宅勤務の方が働きやすいという人とコミュニケーションがとりにくく苦戦している人に分かれている様子です。しかし事業そのものや業務遂行に支障をきたすほどではないと感じています。
 メンタルヘルス不調者の傾向にも大きな変化は見られません。ただし職場の人間関係やハラスメントはリモート勤務となったことで改善したケースもあります。メンタルヘルス不調者の再発の傾向は、どの環境であっても変わりません。

 とはいえ入社歴の浅い人や異動後間もない人は人間関係の醸成が難しいため、特に新入社員に対しては教育担当責任者を「隊長」とし、その指揮によってチームを組んでサポートを行います。また、メンター制度により年齢の近い社員をつけて会社の中のことを教える機会を作っています。
 単身赴任のためにオンオフの切り替えが難しくなり悩んでいる人には、試験的に実家から在宅勤務ができる制度を整えるような配慮も行っています。
 ただし、完全に勤務地という概念を取り払うところまで振り切れないとも思っています。現在はリモートでもできていますが、これがより成果につながるかということについては、これから議論が必要だと思います。リモートで勤務ができるのに、なぜ居住地を選べないのかという不満が社員からあがることはありますが、そこは慎重に検討しているところです。

 当社では、社員の変化を早期にとらえ、改善につなげていくために、コンディションサーベイを毎月行っています。項目は体調、仕事への満足度、人間関係、ロイヤリティ(会社を友人に勧めたいか)の4項目について尋ねます。スコアが低かった方やフリーコメントの記載があった方には、権限のある人事担当者がコンタクトを取り、面談を行って改善につなげています。皆さんが反応してくれるわけではないのですが、1年継続していることや、メールの宛先をBccではなく個人宛にするなどの工夫をすることで、少しずつ反応が増えてきたかなと感じています。介護の問題や会社に対するご意見など、一朝一夕に解決しない問題も多いですが、しっかり話を聴くようにしています。サーベイの結果は昨年10月から改善傾向にあります。

 

人事責任者自らが旗を振り、距離を縮めていく施策を展開

―コロナ下で、課題感を持って取り組んでいることはありますか。
 人事と社員との距離感はやはりありますので、施策の一つとして、人事部長が次世代を担う中堅社員と話をする機会を月に2回設定しています。この座談会は毎回3名ずつなので相当な回数をこなす必要がありますが、こうして距離感を縮めながら、組織の根本的な課題解決やエンゲージメントを高める施策につながれば、という思いを持って取り組んでいます。

 人事部内でも、リモート業務では特に、部門毎の単独業務になりがちなので、共通の課題に関して部門横断的な取り組みを積極的に行っています。例えば、全部員での勉強会を月に1回実施しています。他社の人事制度や法改正についての知識のアップデート、担当者の悩み事やキャリアコンサルティングについてディスカッションするなど、幅広い話題を扱っています。人事として「もっと勉強するカルチャーを作ろう」という理念で進めています。

 その他、コミュニケーションを促す方法としては、例えば部内でチャットツールを使った雑談をするようなしかけをつくっています。「はまっているお菓子」などのお題を毎日出して、レスをつけていきます。趣旨をしっかり伝えることで、前向きに取り組んでもらえています。

 

オンラインにより、広く情報にアクセスできるように

―コロナ下の業務を進めるにあたり、よかったことはありますか。
 現在はwebでつながれるので、面談の設定がしやすくなりました。今までは直接会わないと失礼かなといった感覚はあったのですが、現在はオンラインでも抵抗なく設定できるようになりましたので、もっと対象を広げて話を伺って把握していきたいと思います。

 先日、営業部門の責任者が本部長や部長が集まって、ビジョンや戦略について語り合うところをライブ配信する企画がありました。今までは加わる機会のなかった、本部長と部長との議論を聞いて勉強できるのは、とてもいいことだと思いました。

 

部門に寄り添った人事のあり方を大切に

―これから大切だと思うことはありますか。
 会社として、従来より+αの仕事をするように伝えてきています。コロナ禍の現在でも、人事としては社員のパフォーマンスを底上げし、エンゲージメントを高めていくことを目指しています。各部門長はエンゲージメントを高めるための目標を据えて取り組みを進めています。全社的には創業理念の教育を実施し、考え方を浸透させることでエンゲージメントを高め、連携を促し、新しいものを生み出す力にしていきたいと思っています。そして、商品の付加価値を生み出し、社会貢献を果たしていきたいと考えています。

 人事ではHRBP(部門人事)を導入しました。部門に入り込んで、課題解決を図り、部門に寄り添った人事のあり方を目指していきたいと思います。中央集権型の人事だと、今後うまく進まないのではないかと感じます。後継を進めること、人事と部門の距離を縮めること、理念や制度の浸透を図ること、こうしたことはもっと部門に寄り添って入っていかないと実現できないと思っています。実際、人事が部門に足を運んで連携をすることによって、情報が入ってくるようになりましたし、部門をまたぐ異動や取り組みの橋渡しなど、一つ一つがスムーズになったと思います。

―読者へのメッセージをお願いします。
 リモートになったからこそ、社内外とのコミュニケーションが今まで以上にできるようになったことは画期的な進化だと思います。人事担当は部内でも人数が限られていますので、今までは全員とコミュニケーションを取るのが難しかったのですが、リモートにより、それができつつあるのはすごくいいことだと思います。
 一方で、入社して間もない社員の人間関係構築へのフォローはまだまだできていませんし、そこは今後も十分にケアしていかなければいけないと思います。
 また、部門別の人事が個別の課題に応じて対応していくことがより重要になってくると思っています。

―ありがとうございました。 (2021年3月下旬、聞き手:小林由佳)

 

interviewfollowup8_1

一覧へ戻る

Copyright © 日本産業ストレス学会 All Rights Reserved.